(ここが、幕末の江戸か・・)
はじめて千は江戸に足を踏み入れ、その活気さに目を奪われていた。
「おい千、何してる、行くぞ!」
「は、はい!」
「そんなに江戸の街が珍しいか?」
「初めて来たので・・」
「そうか。まぁ俺も、初めて江戸に足を踏み入れた時はたまげたなぁ。」
「へぇ、原田さんは江戸出身じゃないんですか?」
「俺は伊予松山(愛媛)の出だ。ま、今は帰る家がねぇから関係ねぇがな!」
原田はそう言うと、千の背をバシンと叩いた。
「それにしても、僕達はこれからどうなるんでしょうね?」
「さぁな。」
「おい左之、何処に行っちまったのかと思ったよ!」
「新八、その酒は何だ?」
「最近色々と辛気臭ぇ事ばかり続くからよ、ぱぁっと飲んで憂さを晴らそうと思ってよ!」
「ったく、お前ぇはしょうがねぇな・・という訳で千、俺はちょっくら用事が出来たから・・」
「余り飲み過ぎないで下さいね!」
「わかってるよ!」
原田達と別れた千は、そのまま歳三達が居る宿へと向かった。
「遅かったではないですか。今までどこへ行っていたんですか?」
千が宿に戻ると、渋面を浮かべた千尋が千をにらみつけていた。
「すいません、原田さん達とつい話し込んじゃって・・」
「そうですか。仕事が沢山あるので、手伝って頂けませんか?」
「は、はい・・」
千が千尋と部屋に入ると、そこには新しい隊服が山のように積まれていた。
「これは?」
「新しい新選組の隊服です。洋装の方が何かと和装よりも機能的で動きやすいので副長が導入されたそうです。」
「だから床屋さんが宿に来ているんですね。」
「えぇ。洋装の隊服を着たい者は希望者を募るそうです。」
「あれが、その希望者の・・」
「そうです。わたくしは洋裁の事など一切わかりませぬので、この際わたくしに洋裁を教えて頂けないかと・・」
「わかりました。」
千が千尋と共に隊服の寸法直しをしていると、福を抱いた総司が部屋に入って来た。
「沖田先生、どうかなさったんですか?」
「お願いです二人共、暫くの間匿って下さい!」
「総~司~!」
廊下の方から、まるで地の底から響くような声が聞こえてきた。
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