「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方はご遠慮ください。
「まぁ、可愛い事。」
「目元なんて、姫様にそっくり。」
「将来美人になる事、間違い無しですわね。」
歳三は産後の肥立ちが悪く、産室で臥せっていた。
「姫様、江でございます。」
「入れ。」
「失礼致します。」
江が産室に入ると、そこには苦しそうに呻いている歳三の姿があった。
「姫様!」
「俺に、構うな・・」
「それは出来ませぬ!」
江はそう言うと、薬師を呼んだ。
「中宮様はどうやら、“鬼の毒”にその御身を侵されておりまする。」
「“鬼の毒”ですと?」
「はい。」
「治るものではないのか?」
「はい。これは、厄介なものでして、治すものは純血の鬼の血しかございませぬ。」
「何と・・」
「子供は・・娘は・・」
「ご安心下されませ、姫君様には毒は効きませぬ。」
「そうか。」
「中宮様、お客様が・・」
「俺に客だと?」
「はい、雪英様と申されるお方で・・」
「わかった、通せ。」
「お初にお目にかかります、中宮様。雪英と申します。」
そう言って自分に自己紹介した有髪の僧は、澄んだ緑碧の瞳で歳三を見た。
「失礼致します。」
「俺の顔に、何かついているか?」
「いいえ・・あなた様は、ほんにお母上によう似ておられる。」
「母上に?」
「えぇ。霞の方様は拙僧が幼き頃、我が母のように慕ったお方。まさか中宮様が霞の方様の娘御様とは、何という縁の巡り合わせにございましょう。」
「あぁ、そうだな・・」
「今日お伺いしたのは、中宮様にお渡ししたい物があるからです。」
そう言って雪英は、懐からある物を取り出した。
「高麗伝来の、貝殻の粉薬です。気休めにしかなりませぬが、少しは楽になれましょう。」
「ありがとう。」
雪英から渡された粉薬を飲んだ歳三は、少し症状がマシになったような気がした。
「ねぇあなた、皇太后様の事をどう思いになっているのかしら?」
「どう、とおっしゃいますと?」
「あの方は、事あるごとに中宮様を蔑ろにされるのです。此度の出産の事でも、“次こそは若君を”といやみったらしい文を・・」
「何て嫌な方なのかしら!」
「皇太后さまは、早う夫君を亡くされ、主上を女手ひとつで育て上げられた故、その愛情もひとしおなのでございましょう。」
「ですが、あれは度が過ぎているでしょう!」
「中宮様の御手を煩わせてはなりません。」
「は、はい・・」
(やはりな・・思っていた通りだ。)
「皇太后様、只今戻りました。」
「中宮の様子はどうであった?」
「中宮様におかれましては、産後の肥立ちがお悪いご様子。拙僧めがあの薬を中宮様にお渡し致しました。」
「そうか。」
「それよりも、雪村家で拙僧が傍聞いたのは、女房達が皇太后様に対し不満を抱いている事にございます。」
「何、それはまことか?」
「中宮様のご快癒もままならぬというに、若君をすぐにご所望されるは何たる酷なお方と・・」
「笑止。妾は同じ母として、中宮にその道を説いたまで。」
(困った御方だ、頑固な性は主上に似ている。“この親にして子あり”といったところか。)
内心雪英は溜息を吐きながら、鈴の方を宥めにかかった。
「皇太后様、余り中宮様をいじめてはなりませぬぞ。」
「全く、主上もそなたも妾を悪者にするのか・・あぁ悲しや。」
鈴の方はそう言うと、袖口で涙を拭った。
「中宮様の女房達にも、言い分がおありなのでしょう。どうか、余りお怒りにならないで下さいませ。」
「主上は、妾の事を蛇蝎の如く嫌う。」
「そんな事はございませぬ。」
「妾はもう・・」
「余りお気を落としませぬな。」
(面倒な事になったものだ・・)
「雪英様、お帰りなさいませ。」
「げに恐ろしきは宮仕えと、よう言うたものよ。」
「そのお顔、何かあったのですね?」
「あぁ・・」
雪英は頭を掻きながら、自分の小姓・柚彦に愚痴をこぼした。
「嫁姑の問題は、何も出来ぬ。」
「中宮様と皇太后様はまさしく水と油、いかに混ぜ合わせようともひとつにはなれませぬ。」
「それはわかっておる。」
「聞き役に徹するは苦労もございましょう。柚彦が今茶でも淹れて参りましょう。」
「頼んだぞ。」
柚彦が寺の厨で茶を淹れていると、そこへ寺の稚児達がやって来た。
「おや、誰かと思うたら雪英の小姓ではないか?」
「そなたの主は何処におる?」
「また皇太后様に尻尾でも振っておるのではないか?」
「おやおや皆様、わたくしのような者相手に我が主の事をお尋ねになられても、わたくしは何も皆様にお話しするような事などありませぬが?」
「そなたの主は、近頃皇太后様のご寵愛を受けておるそうじゃが、余り調子に乗るなと主に伝えよ。」
「言いたい事は、それだけですか?」
「ふん、可愛気のない!」
「主も主なら、小姓も小姓じゃ!」
稚児達は一方的にそう柚彦に向かって吐き捨てると、厨から出て行った。
「遅かったな?さては、あの者達の稚児に絡まれたか?」
「はい。」
「相手にするな。力無き者は徒党を組みたがる。放っておけば良い。」
「はい・・」
「雪英様、雪英様!」
突然、切羽詰まったかのような稚児の声が、廊下の方から聞こえて来た。
「何じゃ、どうした?」
「“鬼”が・・“鬼”が現れました!」
「それはまことか?」
「はい・・」
「雪英様、わたくしも参りまする!」
「そなたはここで待っておれ。」
「ですが・・」
「安心しろ、すぐに戻る。」
雪英はそう言った後、柚彦に優しく微笑んだ。
「そなた、何者だ?」
「妖狐、あの妖狐の若造を出せ!」
そう叫びながら雪英に詰め寄ったのは、あの大江山の生き残り、酒呑童子だった。
「そのような者、拙僧は存じませぬが?」
「えぇい、とぼけるでない!あの妖狐の若造を大江山へとつかわせたのは、貴様であろう!?」
「拙僧には預かり知らぬ事。どうぞ、お引き取りを。」
「黙れ!」
酒呑童子は激昂し、雪英に向かって何を放った。
だが、雪英はそれをかわした。
「何!?」
「大江山へお帰りなされ。」
雪英がふぅと酒呑童子に向かって息を吹きかけると、彼はまるで強風に吹かれたかのように、何処かへと飛ばされていった。
「全く、しつこい奴だよね。」
「おられるのならば、すぐに出て下されば良いものを。」
「嫌だよ。」
そう言いながら藤棚の下から顔を出したのは、他ならぬ“妖狐の若造”―総司だった。
「一体あの方と何があったのかは聞きませぬが、そちらの方は?」
「この人は、僕のお嫁さんで、雪村はじめ。ねぇ、突然で悪いんだけれど、僕達を匿ってくれない?」
「何故に?」
「実は・・」
「総司様・・」
そっと総司の背後から出て来た壺装束姿のはじめの下腹は、大きく迫り上がっていた。
「成程・・さぁ、宿坊の方へどうぞ。」
「ありがとう。」
「雪英様、あの方達は・・」
「あの方達は、妖狐の若君ご夫妻だ。」
「妖狐の方々とお知り合いなのですか?」
「あぁ。柚彦、裏庭の薬草を摘んできておくれ。」
「かしこまりました。」
柚彦が裏庭の薬草畑へと向かうと、そこには様々な種類の薬草が生えていた。
(あ、これは中宮様の為に摘んでおこう。)
柚彦がそんな事を思っていると、薬草畑の中を覗き込んでいる一人の男と目が合った。
「この寺に何かご用ですか?」
「雪英はおるか?」
「おりますが、主とはどのようなご関係で?」
「貴様にそれを教える義務はない、そこを退け。」
「それは出来ませぬ。」
「えぇい、そこを退けというに!」
「おやおや、主上が御自らお越しになられるとは・・」
「雪英、暫くこの子を預かってくれまいか?」
そう言って千景が雪英に手渡したのは、彼の娘である千歳だった。
「そのご様子だと、中宮様に何かあったのですか?」
「あぁ、実は・・」
千景が事の次第を説明しようとした時、千歳姫が突然火がついたかのように泣き出した。
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