※BGMと共にお楽しみください。
「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「トシさん!」
「うるせぇ、耳元で騒ぐな!」
「生きてた、良かったぁ~!トシさんが結核で入院したから、もう死んだのかと・・」
「勝手に人を殺すな!」
「そうだね、トシさんはすぐには死なないよね!」
「あぁ。俺はまだ死なねぇ。」
「はい、これ。最近出たミルクキャラメルだよ。これを食べて元気になって!」
「こんな甘い物食えるか。沢庵持って来い、沢庵!」
「まぁ土方さん、いけませんよ!塩分の摂り過ぎは良くないと先生から言われているんですから!」
「うるせぇ~!」
「何や、えらい元気そうやなぁ。」
「おかあさん。」
「はい、少ししかあれへんけど、これ食べて元気出し。」
さえがそう言って風呂敷包みから取り出したのは、小さな壺に入った沢庵だった。
「うめぇ、これだ、これ!」
「まぁ、主治医の先生からはうちがちゃんと言うときますから、どうか今回の事は堪忍しとくれやす。」
「はい、わかりました。」
「ほなトシちゃん、また来るからな。」
「へぇ。」
さえ達を見送った後、歳三はさえが差し入れてくれた沢庵をひとつかじった。
「美味ぇ・・」
一日一個食べれば、大丈夫だろう―そう思った歳三は、沢庵が入った壺をベッドの近くに置いて寝た。
「姐さん、元気そうやったんどすか。」
「あの様子やと、千年位生きそうやわ。」
「さ、夕飯にしようか。」
「へぇ。」
千鶴達が楽しく鍋を囲んでいる頃、歳三は病室で一人高熱にうなされて苦しんでいた。
(勝っちゃん・・)
目を閉じれば、自分に向かって微笑んでくれる勇の姿が浮かんだ。
だが目を開けると、自分の傍には誰も居ない。
(勝っちゃん、会いてぇよ・・)
もう別れたというのに、歳三は勇に会いたくて仕方がなかった。
「姐さん、うちに頼みたい事って、何どす?」
「あぁ、実は・・」
歳三はそう言うと、ある事を千鶴に頼んだ。
「わかりました。」
「頼んだぞ。」
「へぇ。」
もうすぐ、歳三にとって最後の“都をどり”の季節を迎えようとしていた。
1913(大正二)年4月。
「トシちゃん、ほんまに大丈夫か?」
「へぇ。」
「そうか。」
“都をどり”の舞台に、歳三は病をおして最後まで立ち続けた。
「姐さん、お疲れ様どした。」
「おおきに、春月ちゃん。」
楽屋で歳三が化粧を落としていると、そこへ八郎がやって来た。
「トシさん、お疲れ様!」
「ありがとうよ、来てくれて。」
「トシさん、元気そうで良かった。」
「まだくたばるわけにはいかねぇからな。」
歳三がそう言って八郎と談笑していると、さえが楽屋に入って来た。
「えらい賑やかやなぁ。」
「おかあさん。」
「トシちゃん、お疲れさんどした。」
「おおきに。おかあさんも、今までうちを支えてくれてありがとうございました。」
「お礼なんて要らへん。うちは充分、あんたに親孝行させて貰うたからなぁ。」
さえはそう言うと、そっとハンカチで目頭を押さえた。
“都をどり”最終日の夜、歳三の引退祝いの宴が、料亭“幾松”で開かれた。
「では皆様、竜胆姐さん・・もとい土方歳三さんのご健闘を祈って、乾杯!」
「おおきに。」
長い髪をばっさりと切り、“芸妓・竜胆”から、“土方歳三”へと戻った歳三は、背広姿でご贔屓筋の前に現れた。
「いやぁ、凛としてはるなぁ。」
「おおきに。」
「短い髪もよう似合うてるわ。これからはどないするん?」
「それはまだ考えてまへん。」
「そうか。」
「まぁ、“野村”を継ぐ事は考えています。」
「いやぁ、頼もしい跡継ぎが出来て、野村はんはうらやましいわぁ。」
歳三は数日後、さえと正式に養子縁組をしたが、姓は“土方”のままとなった。
「あの・・」
「どうしたん、利ぃちゃん?何や落ち着きのない・・」
「竜胆さん・・歳三さんが家族になったから?歳三さんの事をどう呼んだらいいのかなって・・」
「いや、別に普通に名前で呼んでくれていいぜ?」
「ありがとう、兄さん!あ、ごめんなさい。」
「兄さんって呼んでくれても構わないぜ。俺達は家族なんだし。」
「そうですね。」
「そうや、うちらは家族や。」
こうして、歳三達は真の家族となった。
1918(大正七)年4月。
桜舞う季節に、歳三と千鶴は“夫婦”となった。
「二人共、おめでとうさん。これからもよろしゅうな。」
「おおきに、おかあさん。」
白無垢姿の千鶴は、そう言った後懐紙で目元を拭った。
「今日の千鶴ちゃんはえらい泣き虫さんやなぁ。」
「それは母さんが泣かせるような事を言うからだろ?」
「堪忍え。」
「それにしても、トシちゃんとあんたがいつからこうなるんと違うかって思うてたんへ。」
「え、いつから!?」
「まだトシちゃんが“竜胆”やった頃や。あの頃は、トシちゃんがよう千鶴ちゃんを気にかけてくれたさかい、千鶴ちゃんもここでの生活に慣れて来たわなぁ。まぁ、トシちゃんは千鶴ちゃんの事を、“妹以上”の目で見ていたもんなぁ。」
「おかあさん・・」
「これからは、生まれてくる子の為に余り無理せんようにしぃや。」
「へぇ。」
「え、えぇ~!」
「利ぃちゃん、うるさい。」
「そうや、少しは静かにしぃ。」
「すいません。」
歳三は千鶴の身体を気遣いつつも、仕事に精を出した。
「なぁ、これから色々と楽しみだな。」
「えぇ。男でも女でも、健やかに育って欲しいです。」
「あぁ、そうだな。」
歳三がそう言って千鶴に微笑んだ時、彼はハンカチで口元を押さえて激しく咳込んだ。
「まぁ歳三さん、大丈夫ですか?」
「あぁ・・ただの風邪だ。」
「そうですか・・」
(まさか、な・・)
歳三が恐る恐る口元を押さえていたハンカチをそこから退けると、白いレースには赤黒い染みが広がっていた。
「トシちゃん?」
「おかあさん、俺・・」
「うちやあの子の前では、無理に強がらんでもよろしい。」
「すいません・・」
歳三はそう言うと、堪えていた涙を流した。
「抱いておやり、元気な女の子や。」
「千鶴、ありがとう。」
「これから、二人で合わせて頑張っていきましょうね。」
「あぁ。」
二人の間に生まれた女児は、“千歳”と名付けられた。
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