土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。
真紀は龍馬に、謎の男から奇襲を受けた事を話した。
「ほうかえ。何はともあれ、無事で良かったのう。」
「えぇ。坂本さんが下さったこれが役にたちました。」
真紀はそう言うと、拳銃をそっと握り締めた。
「兄上は、うちを助けてくれはったんどす。」
「ほぉ、この銃は少し扱いづらいが、初めて撃ったにしては良い腕をしとるのぅ。」
「えぇ、これも坂本さんのご指導のお陰です。」
「これからの時代は、剣ではなく銃の時代ぜよ!まぁ、剣と銃、このふたつの両方使いこなせれば、鬼と金棒じゃ!」
「そうですね。坂本さん、何故危険を冒してまで京へ来たのですか?」
「それは、まだ話せん。まぁ、これから長州と薩摩が手を取り合うようになるぜよ。」
「・・今のは聞かなかった事に致しましょう。」
「おんしは賢くて助かるのう。お龍もそうじゃが、余計な詮索はせん。」
「“沈黙は金”といいますからね。それよりも、身体が少し辛くて剣の鍛錬が出来ないので少し憂鬱になってしまいますね。」
「ほうかえ。無理はせん方がええ。しかし、最近寒くなってきたのう。」
「まぁ、冬ですから仕方ありません。北国の冬は、京の冬よりも厳しいようですし。」
「考えるだけで、嫌じゃのぅ。長崎の冬はここよりもマシじゃぁ・・」
龍馬はそう言うと、ブルブルと身を震わせた。
「まぁ、まるで子供のよう。」
「さてと、わしは寺田屋へ行ってお龍に会いに行って来るぜよ!」
「お気をつけて。」
(全く、風のようなお方だな・・)
「あの女、許さぬ!」
「まぁ遊馬様、落ち着いて下さいませ。」
「うるさい、俺に構うな!」
「きゃぁっ!」
「うるさいと思ったら、こんな所で遊んでいるのか。全く、情けない。」
「父上・・」
遊馬は、酒で濁った目で西村を見た。
「ゆきから聞いたぞ、あの宮下真紀を殺そうとしたが、返り討ちに遭ったそうだな。」
「えぇ。父上、これからどうしたら・・」
「それは、自分で良く考える事だな。」
「えぇ。それよりも父上、“青い瞳の聖母”をご存知で?」
「さぁ、知らぬな。遊馬、何を企んでいるのかは知らぬが、わたしに迷惑を掛けるなよ?」
「えぇ、わかっておりますよ・・」
遊馬はそう言うと、再び溜息を吐いた。
「全く、あやつには困ったものよ。攘夷などという熱に浮かされおって・・」
「良いではありませぬか。さ、一献。」
「ありがとうございます、田村様。ご息女様は息災でいらっしゃいますか?」
「我が娘ならば、毎日薙刀の稽古に励んでおる。男に生まれていれば、この家を継がせてやれるというに・・」
「良いではありませんか。ご息女の勇ましさは、後の世に役立ちます。」
「そうだといいんだが・・」
西村の同僚・田村は、男勝りな娘・由良の将来を案じた。
その由良は、自宅の中庭で薙刀の稽古をしていた。
「お嬢様、今日も稽古に精が出ますね。」
「えぇ。父上は?」
「西村様にお会いになっておりますよ。」
「もしかして、また縁談の話を?父上には、いい加減諦めて欲しいものだわ。」
「まぁ、お嬢様ったら。」
由良の乳母・きぬはそう言うと苦笑いした。
「お嬢様、こちらにいらっしゃったのですね。」
そう由良に声を掛けて来たのは、由良の幼馴染・えりだった。
「“お嬢様”はやめて頂戴。」
「いいえ、わたしにとっては、“お嬢様”です。」
えりはそう言うと、目を伏せた。
えりは元々、由良と同じ良家の子女であったが、“安政の大獄”によって父が処刑され、世を憂えた母は幼い弟を連れて夫の元へと旅立った。
独り残されたえりは、田村家に使用人として、由良の侍女として引き取られた。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様。」
「日が暮れる前に、戻るわね。」
由良は薙刀の稽古を終え、えりを連れて三味線の稽古へと向かった。
「冬も近いわね。毎日こう寒くなると参ってしまうわ。」
「えぇ。」
「ねぇ、あそこのお店に寄っていかない?」
そう言って由良が入ったのは、簪や櫛などを売っている店だった。
「これ、あなたに似合いそうね。」
由良がえりの艶やかな黒髪にそう言いながら挿したのは、血珊瑚の簪だった。
「まぁお嬢様、こんな物を頂く訳には参りません。」
「お願い、貰ってよ。」
「由良様、わたくしは物乞いではありません。」
「えり・・」
えりの、己をまるで鞭打つかのような言葉に、由良は驚きの余り目を大きく見開いた。
「欲しい物は、自分のお金で買います。」
「ごめんなさい。」
「いいえ、こちらこそ言い過ぎました。」
「さぁ、急ぎましょうか。」
二人が店を出ようとした時、彼女達は一人の女性と擦れ違った。
美しい黒髪を丸髷に結い、紺の麻の葉文様の小袖姿だった。
女は雪のように肌が白く、美しい形の唇はほんのり紅をさしているだけでも艶めかしかった。
「ねぇ、あの人、素敵ね?」
「えぇ。」
三味線の稽古が終わり、由良とえりが師匠の部屋から辞そうとした時、また店で見かけた女と廊下で擦れ違った。
「あの、落ちましたよ。」
「ありがとう。」
女の財布を由良が渡すと、彼女は由良に礼を言った後、由良に優しく微笑んだ。
美しい切れ長の瞳は、澄んだ青だった。
「あの人、また会ったわね。」
「えぇ。身なりを見る限り、何処かのお内儀様でしょうか?」
「凛とした方だったわね。」
二人がそんな話をしながら帰路に着いている頃、その“素敵な方”こと歳三は、三味線の師匠であり情報屋である左近と向かい合う形で座っていた。
「土方様がそのようなお姿になられるとは、お珍しい。」
「まぁ、“仕事”だからな。男のなりをすればすぐに敵にバレるから、この格好なら敵にバレずに近づける。」
「それで、敵さんの方に動きはありましたか?」
「あぁ、少しな。」
歳三はそう言って、左近に敵の潜伏先である宿屋の住所を記した紙を手渡した。
「よろしく頼むぞ。」
「へぇ、わかりました。」
左近は、そっとその紙を懐にしまった。
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