「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
歳三が振り向くと、そこには左目に眼帯をした一人の少女が立っていた。
黒を基調とした、白いレースがふんだんに使われたドレスを着た少女は、敵意に満ちた視線を歳三に向けた。
「すいません、お手洗いが何処なのかわからなくなって・・」
「トイレならあっちだ。」
「ありがとうございます。」
歳三は少女に礼を言うと、そのままその場を後にした。
(危なかったぜ、あの娘、人間じゃないな。)
「静、ここに居たのか。」
「兄様。」
少女―静は、そう言うと男を見た。
「こんな所に居たのか。随分探したぞ。」
「申し訳ありません。変な女がこの船を探っていたので・・」
「変な女?」
「はい。長い黒髪の女です。」
「そうか。」
静の兄―游也は妹を連れてパーティー会場へと戻った。
「静、あの女で間違いないか?」
「はい。」
「あの女は九尾の狐だ。」
歳三はグラスワインの銘柄を見る振りをして、先程の少女が自分に近づいて来ている事に気づいた。
「八郎。」
「どうしたの、トシさん?」
「あの黒いドレスの娘、間違いねぇ、あいつは鬼だ。」
「えぇ!」
「声がデケェ。甲板へ移動するぞ。」
「う、うん・・」
ジリジリと自分達の方へと迫る鬼の兄妹を、歳三は甲板へと誘き寄せた。
「狐が、この船に何の用だ?」
「この船で開かれる“秘密”のパーティーとやらを知りたくて、ここに来たんだよ。」
「お前達は招待していない。さっさとここから去れ。」
「そうかい、わかったよ!」
歳三はそう叫ぶと、炎を二人にぶつけた。
「ギャァァ~!」
「静!」
「八郎、今の内にずらかるぞ!」
「え、海に飛び込むの!?」
「あぁ、お前泳げるだろ、だったら飛び込め!」
「わかったよ!」
八郎はそう叫ぶと、スーツ姿のまま海に飛び込んだ。
春先とはいえ、海は荒れていて氷の様に冷たい。
「ひぃぃ~、死ぬかと思った。」
「生きているから大丈夫だろ。」
歳三はそう言いながら、海水で濡れたドレスの裾を絞った。
「ねぇ、これからどうする?車、港に置いて来ちゃったし・・」
「さぁな。」
歳三と八郎がそんな事を話していると、そこへ一台のリムジンが通りかかった。
「歳三、乗れ。」
「助かるぜ、兄貴。」
「礼は風間さんに言うんだな。」
「また会えたな、薄桜鬼よ。」
そう言って歳三と三郎に向かって笑ったのは、風間千景だった。
「港に置いていた貴様らの車に、GPSを仕掛けておいた。その車が港から動かないので匡人に電話したのだ。」
「へぇ・・」
「それで、貴様ら腹は減っているか?」
「確かに、パーティーでは何も食べなかったからな。」
「中華街、中華街!」
千景達が向かったのは、コロナ禍では珍しい二十四時間営業のラーメン店だった。
「へいお待ち!」
「ここの味噌ラーメンは美味いぞ。」
「そうか・・って、端から汁を飛び散らしてんじゃねぇ!」
「細かい事は気にするな。」
「気にするよ!あ~、また汁飛ばして!これ絶対シミになるだろうが!」
「・・歳三は、風間さん相手にはいつもあんな感じなのか、八郎君?」
匡人がそう言って八郎を見ると、彼は泣きながらラーメンを啜っていた。
「礼など要らぬ。」
歳三は店の前で千景達と別れ、店の中に入ろうとした時、中から奇妙な音が聞こえて来た。
(何だ?)
恐る恐る歳三が厨房の奥を覗くと、そこには柳葉包丁を研いでいる千鶴の姿があった。
歳三は忍び足で自室に向かったが、ベッドの上に千鶴が正座して待っていた。
「お帰りなさい、あなた。」
「千鶴、ただいま・・」
「浮気、しましたよね?」
「あ、あれは・・」
「今回は許します。でも、次はありませんよ。」
「はい・・」
桜の季節が終わり、GWに突入した。
SNSの影響もあってか、“華カフェ”は連日賑わっていた。
「コロナ禍でこんなに入るなんて、珍しいですね。」
「あぁ。」
そんな中、ある事件が起きた。
「おい、この店は酒出さないってどういう事だ!」
「お客様、それ以上騒がれますと警察呼びますよ?」
「ひぃっ!」
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