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コチラからお借りいたしました。
「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
「羅刹を作ったのは、旧幕府の方ですか?」
「あぁ。蘭方医の、雪村綱道という者が、変若水を作った。一族再興の為に。」
「一族再興?」
「雪村は、人間によって滅ぼされた鬼の一族だ。そして火月も、わたしも鬼だ。」
「じゃぁ、僕達も?」
「わたしは、自分の呪われた血をお前達に受け継がせたくなかった。わたしと同じ苦しみを味わわせたくなかった。」
人と違う事で、いつも苦しんで来た父。
「大丈夫ですよ。人と鬼は長年いがみ合って来ましたが、いつか互いを認め合える時代が来る筈です。」
「そうか?」
「必ず、僕達がそんな時代を作ります。」
「お前は昔、泣き虫だったのに、いつの間にか強くなったのだろうな。」
「もう、父上ったら僕を幾つだと思っているの?」
父子がそんな和やかな会話をしていた時、仏間の方から物音がした。
「来たか。」
「父上、大丈夫なのですか?」
「年は取ったが、潜り抜けて来た修羅場の数がお前とは違う。」
「昔の自慢話は止めて下さいよ。」
仁がそう言いながら仏間の襖を開けようとした時、中から獣が吼える声が聞こえた。
「血ヲ寄越セ~!」
「やはり、来たか。」
口元から涎を垂らし、禍々しい紅い眼で自分を睨みつけている羅刹の首を、有匡は躊躇いなく刎ねた。
「警戒するまでもなかったな、こんな雑魚が・・」
「やはり、あなたはお強いですね、有匡殿。」
中庭から男の声がしたかと思うと、大山愛助が有匡と仁の前に現れた。
「愛助殿、今更我が家に何のご用ですか?」
「今日は、あなたのお孫さん・・桃代さんでしたっけ?その子をお迎えに上がりましたが、どうやらいらっしゃらないようで、残念です。」
「孫に何の用だ?返答次第では、この場で斬り伏せる。」
「桃世さんには、あなた方の、鬼の血を濃く受け継いだ者。彼女には、この国の為に貢献して貰います。」
「貢献だと?」
「富国強兵の為に、彼女には鬼の血をひく子を産んで貰います。」
「あの子を、貴様の汚い政の道具にしてなるものかっ!」
愛助は、有匡の刃を胸に受け、絶命した。
「最近の羅刹騒ぎは、桃代を狙ったものだったのか?」
「そうらしい。それよりも、後始末をせねばな。」
「はい。」
羅刹と愛助の遺体を山に捨てた有匡と仁は、聖心寺へと向かった。
「父上、桃代をあの者達の仲間が狙っているとは、どういう事ですか?」
「桃世は、わたしの・・正確に言えばわたし達の鬼の血を受け継いでいる。愛助殿が桃代を狙っていたのは、それだけではない。あの子は、火月に似ている。」
「母上に?」
「彼は火月に懸想し、火月の義姉を身勝手な理由で殺した。火月を手に入れようとして失敗し、今度は桃代を・・」
「身勝手な男ですね。桃代が、無事でいればいいのですが・・」
「あぁ、桃代が無事であればいいが。」
有匡はそう言うと、馬の尻に鞭をくれてやった。
「お母様、どうしてここに泊まらなければいけないの?今夜は、お祖父様と一緒に寝たかったのに。」
「わがままを言うものではありませんよ。桃代は、本当に父様が好きなのね。」
「はい、大好きです。お祖父様は、お父様よりもお優しいし、色々と教えて下さいます。」
「そう。」
雛は、夫・貴之が外に女を囲っている事を知っていた。
だが、有匡には相談出来なかった。
「姉様、どうかなさったの?」
「何でもないわ。」
「もしかして、お義兄様が・・」
「華、外へ出ましょう。」
雛はそう言うと、宿坊の外へと華を連れ出した。
「あの人の事は、もう諦めているわ。あの人の女癖が悪い事を、わたしがもっと早くに気づいていたら・・」
「そんなの、姉様の責任ではないわ!あの男は、姉様を苦しめたいだけよ!」
「やめなさい、子供達が聞いているかもしれないわ。」
「ごめんなさい。」
華がそう姉に謝った時、宿坊の方から悲鳴が聞こえた。
「あなた達、何をしているの!」
宿坊に二人が戻ると、そこには貴之が数人の男達と共に桃代を連れ去ろうとしていた。
「雛、桃代はわたしが連れて行く。この子は、鬼の国を作る為に必要なんだ。」
「そうはさせません!」
凛とした声が宿坊の中に響くと共に、薙刀を持った澪が貴之達を撃退した。
「澪様、助かりました。」
「雛、桃代、無事か!?」
「はい、父様。」
「澪殿、かたじけない。」
「いいのです。」
「お祖父様、今夜は一緒に寝ても良いですか?」
「構わぬ。」
「やった!」
「これ、はしたないですよ。」
こうして、有匡達は一緒に同じ部屋で寝る事になった。
「こうして川の字になって寝るなんて、何年振りかしら?」
「そうだな、まだお前達が七つか八つにならぬ頃だったな。華は、火月の腹の中に居たな。」
「まぁ、そんな昔の事でしたの。」
「あの頃は漸く御一新後の混乱も落ち着いてきて、穏やかな生活を送れる事自体がありがたかった。」
時折寝返りを打って布団からはみ出る桃代をそっと起こさぬように、有匡は彼女の上に布団を掛けた。
「桃代には、この子には光ある未来を生きて欲しい。悲しみや絶望に塗れた未来ではなく、明るく幸せな未来を・・」
有匡はそう言った後、桃代の髪を優しく梳いた。
羅刹と愛助が土御門家を襲撃してから数日後、貴之が親族の者と共に土御門家を訪れた。
「用件は手短に願おうか。」
「お義父様、この度は・・」
「わたしがそなたに言いたい事はひとつ。直ちに雛と離縁せよ。」
「どうか、やり直す機会を・・」
「幼い娘を母親から引き離そうとする男は、父とは呼べぬ。それに、そなたには先斗町や祇園、あぁ向島や深川、神楽坂にも色々と“あて”があるのだろう。」
「そ、それは・・」
有匡の言葉を聞いた貴之が酷く狼狽えるのを見て、彼は扇子をパチンと鳴らして閉じた。
「去ね。」
「有匡殿、どうか・・」
「くどい!」
有匡はそう言って貴之達に向かって“力”を使うと、彼らは悲鳴を上げ土御門邸から出て行き、二度と来る事は無かった。
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