「僕が・・イギリスへ?」
「ええそうよ。アフロディーテは寄宿学校に行ってたくさんの人と付き合いたいと言ってるのよ。でも1人では不安だから、あなたと一緒に行きたいって言ってるのよ。」
皇妃はそう言ってユリウスを見た。
「ええ、あの子はイートン・カレッジに行くと言うのよ。正確に言うとイートンと並ぶほどの名門女子校に行くけれどーあそこなら最高の教育が受けられるし、あなたにとっては悪い話じゃないと思うけど?」
イートン・カレッジといえば、各界に著名人を輩出している名門校だ。
生徒は貴族の子弟しか入れないので、庶民の出でイートン・カレッジに入学するのは大変名誉なことである。
だがそんな大変名誉な話を皇妃から持ちかけられても、ユリウスは素直に喜べなかった。
それはシュタイナー公爵邸でのお茶会でのルドルフの言葉に何かひっかかっていたからだ。
“お前も僕を1人にするんだな。”
そう言って寂しそうな表情を浮かべたルドルフ。
今彼の傍を離れてイギリスへ行ってしまったら、何か取り返しのつかないことになりそうな気がする。
「時間を・・ください・・」
「わかったわ。あなたにとっては今後の人生を左右する大事な問題ですもの。じっくりと考えて結論をお出しなさい。」
失礼します、とユリウスは言って皇妃の部屋を後にした。
自分の部屋のドアを後ろ手で閉めたとき、ユリウスは床に崩れ落ちるように座り込んだ。
(僕はどうしたらいいんだろう?メルクへ行くべきなんだろうか・・それともアフロディーテ様とイギリスへ行くべきなんだろうか?)
その夜、何度も頭の中で結論を出そうとすればするほど、出なかった。
それよりもますます悩み、一睡も出来なかった。
ルドルフはこのことを知っているのだろうか。
いや、知らないだろう。
皇妃の部屋で立ち聞きなどするはずがないし、ルドルフにそんな時間はない。
ユリウスは枕を抱き締め、一晩中イギリスへ行くべきかどうか悩んだ。
翌朝、眠い目をこすりながらユリウスは、皇妃の部屋をノックした。
「お入りなさい。」
「失礼いたします。」
皇妃は旅支度をしていて、彼女の隣には荷物を持った女官が控えていた。
「さがりなさい、この子と2人で話したいことがあります。」
かしこまりました、と女官はそう言って皇妃の部屋を出ていった。
「で、結論は出たの?」
「はい。僕はイギリスへ行きます。」
「・・そう。後悔しないわね?」
「僕が決めたことですから。」
「入学手続きはこちらで済ませておくわ。イギリスへ行くまではゆっくりしていなさい。何も心配することはないわ。」
「ありがとうございます、皇妃様。」
「イートンでお勉強に励みなさいな。私はあなたに期待しているのよ、ユリウス。」
皇妃はそう言ってユリウスの額にキスをして、部屋を出ていった。
「ユリウス、イギリスへ行っちゃうって本当なの?」
雪に彩られた王宮庭園を歩きながら、クララはそう言ってユリウスを見た。
「うん・・すぐに行くわけじゃないけど、アフロディーテ様と一緒に・・」
「そう。どこに行くの?」
「イートン・カレッジだよ。アフロディーテ様はその隣にある名門女子校に行くんだ。」
「イートンですって!?貴族様が行く学校じゃないの、ユリウス凄いわ!」
「そんなことないよ・・それに・・」
「それに?」
「ルドルフ様に寂しい思いをさせてしまうんじゃないかと思って・・いつも一緒だったから。」
「誰が寂しい思いをするって?」
怒気を孕んだ声が聞こえてクララとユリウスが振り向くと、そこには愛犬・マクシミリアンを従えたルドルフが立っていた。
「イギリスでもメルクでもどこへでも行けばいい。僕はお前なんか要らない。」
ルドルフは氷のような声で言って、庭園を去っていった。
あとがき
ユリウス、アフロディーテと共にイギリスへ。
本当は彼を行かせたくないのに、わざと彼に冷たい言葉を投げつけるルド様。
これからちょっともめます。
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