「俺の家庭を壊したいだと?お前は一体何を・・」
「あんたが世田谷の産院で俺を産んで捨てた後、俺は清隆の両親に引き取られたさ。」
純はそう言うと、どかりとソファに腰を下ろした。
「養父母は俺の事を可愛がってくれた。実の子が生まれるまではね。血が繋がらない子は要らないものだと、最初から教えてくれていたらあんな惨めな目に遭わずにすんださ。俺が辛酸を舐めているのに、あんたは夫と子どもと3人で幸せな家庭を作って暮らしてる!それが許せないんだよ!」
「だったらどうしろと?15年振りに親子としてお前と暮らせってか?冗談じゃねぇよ。確かにお前を捨てた事は悪いと思ってる。だが過去の事は今更消せるわけがないだろう!」
「じゃぁどうして俺を産んだんだ!育てられないとわかっていたら、中絶してくれればよかったのに!」
純はそう叫ぶと、リビングから出て行った。
一人リビングに残された歳三は、溜息を吐いてソファに腰を下ろした。
(俺は、一体どうすれば・・)
ジャカルタの異動話について総司に話せぬまま、期限は刻々と過ぎていった。
「土方さん。」
「どうした、総司?まだ寝てなかったのか?」
寝室で寝ていると、自分のベッドに総司が入って来る気配がして、歳三は身じろぎした。
総司の手が歳三の豊満な乳房を下着越しに触って来たので、彼女はその手を咄嗟に払いのけた。
すると彼は、歳三の陰部へと手を伸ばした。
「やめろ。そんな気分じゃねぇんだ。」
「嫌ですよ。もしかして土方さん、怖いんですか?また流産するかもしれないって・・」
「そんな事は思っちゃいねぇよ。ただ離ればなれになるのに・・」
「え?」
総司は歳三を抱き締め、彼に真顔で迫った。
「ねぇ、それってどういう事ですか?」
「実はな、ジャカルタ支店異動の話が来たんだよ。俺は行きたくねぇんだが、行かないと会社が潰れちまうかもしれねぇ。」
「そんな・・まさか、ジャカルタ行きの話、受けるんですか?一体誰がそんな事・・」
「藤原宣孝だよ、会長の長男の。俺が疎ましくて仕方がないらしい。」
「だからって、こんな理不尽な事、受け入れるなんて!」
「俺は行きたくねぇが、向こうは会社を潰す気満々だ。芹沢さんは出来るだけ俺を行かせないよう策を練っているようだが・・」
「そうですか。土方さん、何があっても僕は土方さんの味方ですからね。」
「ありがとう、総司。そう言ってくれるだけで嬉しいよ。」
歳三は総司に微笑むと、彼を抱き締めた。
数日後、歳三と総司は誠を連れて鴾和家のクリスマスパーティーに出席した。
「良く来てくれたね。」
鴾和香はそう言って土方夫妻を笑顔で迎えた。
「あなた、こちらの方は?」
香の隣に立っている黒髪の美女が、そう言って歳三を見た。
「紹介するよ、土方歳三さんだ。土方さん、こちらは妻の蓮華だ。」
「蓮華です、初めまして。」
「初めまして。」
「少しあちらでお話しいたしませんこと?」
香の妻・蓮華に連れられた歳三は、母屋から少し離れた部屋に入った。
「歳三さんとおっしゃったわね。あなたの話は主人から聞いていてよ。」
「は、はぁ・・」
蓮華はそう言うと、歳三を見た。
「血を分けた兄妹で憎み合うことは、とても愚かなことだわ。あなたのお兄様は相当あなたの事を嫌っているようね。」
「嫌っているというより、憎んでますよ。」
「あの方、宣孝さんと言ったかしら?あの方は会長が外の女に産ませた子なのよ。正妻の子は次男の良治さんと長女の瑠璃さんだけ。」
「愛人の子である自分が露骨に差別されて悔しいと思ってんのか・・くだらねぇな。」
「ええ、本当に下らないわね。滑稽を通り越して哀れだわ。」
蓮華はそう言うと、コーヒーを飲んだ。
「さてと、これから本題に入るけれど・・歳三さん、まさかあなた家族を残してジャカルタに行くなんて思ってないわよね?」
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