平助が死んだという知らせが自分の下に入ってきたのは、夜明け前のことだった。
油小路で新選組隊士達と斬り合いになり、原田達が逃がそうとした時に隊士に斬られたという。
また、一人仲間が死んだ。
山南の時も、平助の時も、自分は冷徹になろうと努めていた。
だが心の奥底では彼らに対する罪の意識があった。
(俺は、どうして・・)
『土方さん、入りますよ?』
すぅっと副長室の襖が開いて、総司が入って来た。
『泣いてもいいんですよ、僕の前では。』
弟分の言葉を聞き、鬼副長と呼ばれた自分の涙腺が、いとも容易く崩壊してしまった歳三は、彼の胸に顔を埋めて泣いた。
「土方さん、おはようございます。」
「んぁ・・おはよう。」
朝を迎え、歳三はソファから気だるそうに起き上がると、総司がキッチンで朝食を作っていた。
「顔洗った方がいいですよ?酷い顔してますから。」
「うるせぇよ。」
昨夜の事を、総司は何も言わない。
だが彼は歳三がどんな気持ちなのか、解っている。
だからこそ、そっとしてくれているのだ。
洗面所で顔を洗うと、目の下には深い隈が出来ていた。
(酷ぇ顔だな・・)
総司が作ってくれた朝食を食べ、ドレッサーの前に座って化粧をしながら、歳三は溜息を吐いた。
「じゃぁ、行ってくるわ。」
「行ってらっしゃい。」
総司に見送られて出勤した歳三は、芹沢の部屋へと向かった。
「福島へ?」
「ええ。夫の仕事の都合で引っ越すことになりまして。」
「そうか。君が本社から居なくなると寂しくなるな。向こうでも頑張ってくれよ。」
「はい。長い間、お世話になりました。」
歳三が福島に引っ越す事を知った同僚や部下達が、彼女の為に送別会を開いてくれた。
「先輩、福島なんかに行かないでくださいよぉ~」
酔っ払った玉置が、そう言って涙目で歳三にしなだれかかってきた。
「ったく、そんな事できねぇよ。それにまだ引き継ぎだってあるし、まだ本社には居るよ。」
「そうですか、良かったぁ!」
送別会から数週間後、歳三は仕事の引き継ぎを終わらせ、総司と誠とともに福島県会津若松市へと引っ越した。
「ママ、向こうでお友達出来るかなぁ?」
「出来るさ。」
「土方さん、向こうで友達出来ますかねぇ?」
「おい総司、誠の真似すんじゃねぇ。」
「最近土方さんって、僕にだけ冷たいですよねぇ。」
「お前ぇ、先生になろうって奴がいつまでも甘えてんじゃねぇ。ったく、これじゃぁ先が思いやられるぜ。」
「酷~い!」
東京から会津若松市への高速バスの旅はあっという間に終わり、歳三達が新居へと向かうと、もうすでに引越センターのトラックが停まっていた。
「ここが、俺達の家か・・」
真新しい一軒家を見ると、歳三はこれからここで頑張ろうと身を引き締めた。
「終わりましたね。」
「ああ。肩が凝って仕方がねぇなぁ。」
引越しの荷物を全て解いて整理した後、歳三は新居のリビングのソファでそう言って欠伸を噛み殺した。
「揉んであげますよ?」
「悪ぃな、頼む。」
「土方さん、僕頑張りますから。」
総司の言葉に歳三は笑うと、彼の頬に唇を落とした。
翌朝、歳三は近所へと挨拶まわりに行った。
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Last updated
2012年04月11日 23時06分30秒
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