「検査なんて・・わたしには必要ありません!」
瑞姫がそう言ってゾフィー大公妃を見ると、彼女はじろりと瑞姫を睨みつけた。
「お黙りなさい。さぁ先生、はじめてくださいな。」
「では、失礼します。」
瑞姫は医師がベッドの柵に固定された両足首の間に指を入れる感覚がして、思わず悲鳴を上げた。
「力を抜いて下さい。」
瑞姫は力を抜こうとしたが、両足を開かれた屈辱的な格好に羞恥心からかなかなか力を抜く事が出来ずにいた。
「大公妃様、失礼致します。」
「お入りなさい。」
部屋の扉が開き、マリサが部屋に入って来た。
「良い所に来たわね、マリサ。」
「嫌、見ないで!」
ただでさえ屈辱的な格好を人前に晒しているというのに、その上マリサとゾフィー大公妃に検査の様子を見られ、瑞姫は死にたくなった。
悪夢のような時間は漸く終わり、瑞姫の両足首を拘束していた針金がベッドの柵から外された。
「この女はどうだったの?」
「妊娠・出産には何ら問題ありません。」
「そう、もう下がって頂戴。」
医師が部屋から出て行くと、ゾフィー大公妃は枕に顔を埋めている瑞姫の髪を掴んだ。
「子が産める身体だからと言って、わたくしはお前とルドルフとの結婚を許した訳ではないわよ。その事は憶えておきなさいね。」
「大公妃様、後はわたくしが。」
「そう。」
ゾフィー大公妃はさっさと部屋から出て行くと、瑞姫はマリサと2人きりになった。
「あなた、あんな検査で痛がってちゃ、ルドルフ様とセックス出来ないわよ? これだから処女は面倒なのよ。」
瑞姫の羞恥心は、マリサの言葉で激しい怒りへと変化し、気が付けば彼女を拳で殴っていた。
「きゃぁ~、誰か助けて!」
マリサは大袈裟な悲鳴を上げながら、悲鳴を聞きつけたルドルフの胸へと飛び込んだ。
「どうした?」
「この子が・・この子が急にわたくしに殴りかかって来たんですわ! ルドルフ様、早くその子を追いだして下さいな!」
「ミズキ、本当か?」
「はい、本当です・・ですが彼女が酷い言葉を・・」
ルドルフは瑞姫の言葉を聞いた後、マリサを見た。
「ミズキに何を言った?」
「わ、わたくしは何も・・ただ、検査の時に余りにも痛がるものだから、つい嫌味を・・」
「検査? どういう事だ?」
自ら墓穴を掘ってしまったとマリサはその時悟ったが、もう遅い。
「実は、大公妃様が・・」
マリサは、ゾフィー大公妃が独断で瑞姫に不妊検査をした事を話すと、ルドルフは烈火の如く怒った。
「お祖母様と話をつけてくる。ミズキ、君も一緒に来てほしい。」
「いいんです、そんな・・」
ルドルフは有無を言わさず、瑞姫の手を掴むとそのまま祖母の部屋へと向かった。
「お祖母様、失礼します!」
「ルドルフ、お前がわたくしの部屋に来るなんて珍しい事。」
「お祖母様、ミズキの許可を得ずに勝手に不妊検査をしたそうですね?」
「まぁ、わたくしはお前の為を思ってしたことなのよ。わたくしだって早く曾孫の顔を見たいから・・」
「あなたが産むわけでもないのに、ミズキを傷つけるなんて許しません!」
「ま・・」
ルドルフの言葉に、ゾフィー大公妃が驚いていると、彼は瑞姫を連れて部屋から出て行った。
「ルドルフ様・・」
「済まない、ミズキ。君を傷つけてしまって・・」
ルドルフは涙ぐむ瑞姫を抱き締めると、彼女の嗚咽が治まるまで華奢な背中を擦り続けた。
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最終更新日
2016年05月08日 20時34分21秒
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