翌日、聖良とリヒャルトはリヒト郊外にあるゴルフ場に居た。
大のゴルフ好きの国王・アルフリートが突然ゴルフに行きたいと言ったので、彼の機嫌を取ろうとする宮廷貴族達が供をし、宮廷内の人間関係を把握しておこうと考えた聖良も国王に同行する事となった。
「セーラ様、ゴルフはなされるのですか?」
「いや、全くの初心者だ。お前は?」
「昔ジュニア大会を総なめにしたことがありました。父上がゴルフは紳士の嗜みだと煩く言って習ったものですから、仕方なく・・」
「ほう。」
リヒャルトの新たな一面を知り、聖良は思わず目を丸くした。
今でこそゴルフは誰でも楽しめるスポーツであったが、100年以上前では上流階級でしか楽しむことを許されぬスポーツだった。
だから貴族であるリヒャルトがゴルフを嗜むのは当然のことなのかもしれない。
聖良はゴルフについてはルールも知らぬド素人であるため、リヒャルトの助けなしでは楽しめないと思い彼を連れてきたが、どうやら正解だったようだ。
「ナイスショット!」
アルフリートの放ったボールがグリーンへと着地すると、彼の傍に侍っていた貴族達が一斉に拍手を送った。
どの国でも、接待する相手の機嫌を損ねないようにしているのは同じらしい―聖良はそう思いながら、クラブを握った。
「セーラ様、大丈夫です。」
「そんなにプレッシャーを掛けるな。」
聖良はじろりとリヒャルトを睨むと、クラブを大きく振った。
聖良が放ったボールはグリーンに着地し、旗の近くで停止した。
「初めてにしては上出来だな、セーラ。」
「ありがとうございます、父上。」
「今度アンジェリカも交えて3人でここのコースを回らないか?」
「考えておきます。」
アルフリートと聖良が談笑していると、一台のカートが彼らの前で停まった。
「父上、こちらにいらっしゃっていたのですか!」
カートから降りてきたのは、フリードリヒと彼とよく一緒に居る美貌の司祭・ディミトリだった。
「これはこれは、皇太子様もお揃いで。」
そう言ったディミトリは、淡褐色の瞳で聖良を見て微笑んだ。
「お前達も来ていたなど、知らなかったぞ。どうだフリードリヒ、一緒にコースを回らないか?」
「はい、父上!」
フリードリヒはアルフリートと聖良との間に割りこむと、聖良に舌を出した。
「いつも子守は大変だろう、ディミトリ?あいつのことだ、わたし達がここに居ると知ってお前を運転手代わりにしたのだろう?」
「そんなことはございません。それにしても以外ですねぇ、セーラ様がゴルフをなさるとは。てっきり王宮内の行事に出席されているのかとばかり・・」
「宮廷内の人間関係を少しでも把握したくてね。誰が一番権力を持っているのか。それと、誰が父上を密かに裏切ろうとしているのとかをね。」
聖良とディミトリの間に、気まずい沈黙が流れた。
「兄上、早く参りましょう~!」
アルフリートと腕を組みながら、フリードリヒが呑気な声で聖良を呼んだ。
「では、わたくしはこれで。」
ディミトリはさっと笑顔を作ると、フリードリヒの元へと駆けていった。
「油断なりませんね、あの司祭。」
「顔は良いが、かなりの野心家のようだな。恐らくあいつがフリードリヒに色々と吹き込んでいるんだろうよ、俺の悪口を。」
「お気になさることはありません。」
「そうだな。」
聖良とリヒャルトがアルフリート達の後を追っていくと、ある貴族がへたくそなショットを打っていたところだった。
「ナイスショット!」
彼が下手であることを知りながらも、周囲の者は彼をおだてている。
「あの男は?」
「昨日の茶会でお会いになられた、アッヘンバッハ伯爵です。」
「ほぉ、では彼が宮廷の実力者か。少し行って来る。」
聖良はそう言うと、男の方へと歩き出した。
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