『ミオン、何しに来た?』
『何って、イルジュンを預かってくれたお礼を言いに来たのよ。まさか、ここで門前払いっていうわけないわよね?』
ミオンがそう言うと、歳三は舌打ちして彼女を中に入れた。
『イルジュン、前はわがままで手がつけられなかったのに、今ではまるで別人のようになっていたわ。あなたのお陰かしら。』
コーヒーを一口飲みながら、ミオンはそう言って歳三を見た。
『お前があいつを散々甘やかしていたから、あんな生意気な餓鬼になっちまったんだ。一体今までお前ぇはあいつをどんな風に育てたんだ?』
『シングルマザーで子どもを育てながら仕事を両立させるのは大変なのよ。パパやママも、孫には甘いのよ。』
ミオンの、まるで周りが悪いと言わんばかりの言葉に、歳三は溜息を吐いた。
『それで?もう話は済んだのか?』
『いいえ、まだあるわ。実はパパに頼んであなたを会社に雇って貰うようにしたのよ。』
ミオンの言葉に、歳三は眉を顰(ひそ)めた。
『ミオン、言っとくが俺はお前の世話になるつもりはない。』
『そう、それは残念ね。ああ、あなたにはもう奥さんが居るものね。』
ミオンはちらりと千尋を見ると、コーヒーをまた一口飲んだ。
『じゃぁね、ヨンイル。またソウルで会いましょう。』
ミオンはイルジュンを連れ、部屋から出て行った。
「トシ兄ちゃん・・」
千尋が心配そうな顔をして歳三を見た。
「安心しろ、千尋。俺達はずっと日本で暮らすんだ。何も心配することはねぇよ。」
「うん・・」
千尋は歳三に抱き締められながらも、まだ一抹の不安を抱いていた。
クリスマスが終わり、年末年始は東京の土方家で過ごす予定だったが、急遽隼人から清子が倒れたという連絡があり、歳三達はソウルへと向かうことになった。
「大丈夫なん、お祖母様?かなりのご高齢やと聞いたけど・・」
「大丈夫さ。それよりも千尋、お前のほうが心配だ。」
乳飲み子を二人抱えての海外旅行は、千尋にとって緊張とストレスを感じる3時間半の旅だった。
双子達は気圧の変化で耳が痛いのか、仁川(インチョン)空港に着くまで泣き通しだった。
トイレでおむつを替えるのも、歳三とそれぞれ交代で行くことになり、座席で休む暇がないほど忙しかった。
「やっと着いたな。」
「うん・・」
歳三と千尋は疲れ切った顔をしながら、双子を抱っこして荷物が出てくるのを待った。
歳三たちの荷物が出てきたのは最後だった。
双子用のベビーカーに娘達を乗せ、歳三達が到着口へと向かうと、そこには隼人の姿があった。
「すまないね、二人とも。車を外で待たせているから、行こうか。」
「はい・・」
空港から出ると、冬の冷風が容赦なく5人にふきつけてきて、千尋は寒さで震えた。
「見舞いをしたらさっさと帰るからな。」
「そんな事を言うな、トシ。お前にとっては久しぶりのソウルじゃないか。」
隼人がそう言って車のエンジンを掛けると、駐車場から出て行った。
車は仁川空港を瞬く間に離れ、ソウル中心部へと入っていった。
「婆さんが入院してる病院は何処だ?」
「もうすぐ着くよ。」
数分後、歳三達は清子が入院している病院に着いた。
「ここだよ。」
隼人が二人を病室に案内すると、清子がちょうどベッドから起き上がるところだった。
『来てくれたのかい、嬉しいよ。』
清子はそう言うと、歳三と千尋に微笑んだ。
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