「どうして・・」
「初めて会ったときからすぐに気づいたよ。」
ジェフは口元に冷笑を浮かべると、アレックスを見た。
深い紫紺の瞳に心の奥まで見透かされてしまうかのようで、アレックスはジェフから目を逸らした。
「君はどうして、ウォルフの婚約者としてここに居る?」
「それは、答えられません。」
「ふぅん、そう。」
ジェフは少し興味がなさそうな顔をすると、曲が終わった途端アレックスから離れていった。
(何だろう、あの人・・)
まるで自分を珍獣を見るかのような目つきで見る彼に対し、アレックスは嫌悪感を抱いた。
「アレックス、どうした?」
「ウォルフ、もういいの?」
「お前が心配になって、ちょっとあの女の目を盗んできた。」
ウォルフはアレックスに水を差し出すと、心配そうな目で彼を見た。
「ジェフに何か言われたのか?」
「あいつ・・俺が男だってことに気づいてる。」
「何だと!?」
ウォルフの美しい眦が上がり、金色の瞳が険しく光った。
「アレックス、なるべく一人きりになるな。それと、ジェフには気をつけるんだ。」
「うん、わかった。それよりもウォルフ、俺のママのことだけど・・」
ラリーから聞いた話をアレックスが話そうとしたとき、鞭のようなタンバレイン夫人の声が響いた。
「何をしているの、ウォルフ!さっさと働きなさい!」
「申し訳ございません、奥様。」
ウォルフはそう言ってアレックスに頭を下げると、彼に一枚のメモを握らせて厨房へと戻っていった。
「ごめんなさいね、アシュリーさん。あの子ったら、いつもわたくしが見ていない時に怠けようとするんだから。」
「いいえ、わたくし全然気にしておりませんわ。」
タンバレイン夫人に対する怒りを抑え込みながら、アレックスはにっこりと彼女に微笑んだ。
「ねぇ、あちらで少しお話なさらないこと?」
「え、ええ・・」
一体彼女が何を考えているのかわからないが、アレックスはタンバレイン夫人とバール・ルームから出て行った。
「どちらへ?」
「皆さん、こちらがウォルフの婚約者・アシュリーさんよ。」
数分後、タンバレイン夫人がそう言って部屋に入ると、そこには数人の女性達がソファに座りながらアレックスを見ていた。
「まぁ、この子が?」
「随分とお若いのねぇ。」
「ハノーヴァー家の娘と聞いているけれど、初めて見るお顔だわ。」
ご婦人達はペチャクチャと自分達のペースでしゃべりながらアレックスの顔をジロジロと見た。
「あの・・奥様、こちらの方は?」
「ああ、こちらはわたくしの友人達よ。あちらが、南部婦人会のリーダー、バーンズ夫人よ。」
バーンズ夫人はでっぷりと垂れ下がった尻をかろうじてソファにおさめて、しきりに扇子でブルドッグのようなしわがれた顔を扇いでいた。
「はじめまして、バーンズ夫人。」
「あらぁ、あなたがアシュリーねぇ。」
バーンズ夫人は気だるそうな声を出して、じろりとアレックスを見た。
彼女は大儀そうにゆっくりとソファから立ち上がると、アレックスにボンレスハムのような手を差し出した。
「ミシェルよ、宜しく。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
バーンズ夫人はじぃ~っと数秒間アレックスを見つめていたが、また彼女はソファに戻り、腰を下ろすなりいびきをかき始めた。
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