「ねぇ、何読んでんの?」
ピザを注文した薫が再び姉が居るリビングへと向かうと、彼女は文庫本を読んでいた。
「ああ、これ?適当に本棚から抜き出してきたんだよ。読書感想文早く済ませようかと思ってさ。」
「へぇ。あたしどうしようかなぁ~」
「何でもいいって言ってたよ、漫画以外なら。」
「最近気になる本あるんだけど、まだ文庫化されてないんだよねぇ。」
「お小遣い、まだ残ってるんでしょ?それで買えばいいじゃん。あたしも丁度新しい参考書欲しかったからさぁ。」
美輝子がそう言って文庫本から顔を上げたとき、ドアチャイムが鳴った。
「あれ、もう来たのかな?」
薫がドアを開けると、そこには二年の女子サッカー部員・種田洋子が立っていた。
「あら、どうしたの洋ちゃん?」
「土方先輩に、折り入ってお話があるんですが・・今宜しいでしょうか?」
洋子はちらりと美輝子の様子を窺いながら、そう言って部屋に上がろうかどうか迷っているようだった。
「いいよ、あたしは別に。」
「そうですか、じゃぁお邪魔します。」
洋子はそう言って薫達に頭を下げると、玄関で靴を脱いだ。
「で、話って何?」
「実は、兄のことなんですけど・・」
洋子の兄・博は美輝子達と同じクラスに居て、何かと二人にちょっかいを掛けてきた。
「あんたの兄貴がどうかしたの?」
「先輩達がお付き合いしている人が居ないかどうか、聞いて来てくれって言われたんですけど・・」
「居ないよ、そんなの。部活でクソ忙しいんだから、恋愛にうつつを抜かしている暇ないの!」
「そうですか。」
「あ、先に謝っておくけどさぁ、あんたの兄貴とは付き合えないから!」
薫の言葉に、洋子は少し落胆したかのような表情を浮かべた。
「話はそれだけ?」
「あとひとつあるんですけれど、母のことなんです。」
「ああ、あんたのお袋さんのことね・・」
洋子が母親について話し出したとき、薫は急に疲れきったかのような表情を浮かべた。
洋子と博の家は母子家庭で、彼らの母・裕子は保護者会で歳三に会ってからというものの、一方的に熱烈なアプローチを歳三にしてきているのだった。
「お見合いをされたと聞いて、母が烈火の如く怒っていました。“土方さんの心を癒せるのはわたしだけなのに!”って。」
「ふ~ん、そうなんだ。」
洋子の言葉に相槌を打っていた薫の目は死んでいた。
「それじゃぁ、わたしこれで失礼します。」
「大丈夫、もう暗いけど?」
「家が近いんで。」
洋子がぺこりと二人に向かって頭を下げ、玄関から出ようとしたとき、再びドアチャイムが鳴った。
「すいません、ピザです~!」
「あ、は~い!」
薫はそそくさとダイニングテーブルの上に置いてある財布を手に取り、ドアを開けてピザを受け取った。
「じゃぁ、また部活でね、洋ちゃん!」
「失礼しました!」
ドア越しに洋子に手を振りながら、薫はピザの代金を払うとドアチェーンを掛けてドアを閉めた。
「ねぇ、さっきの話本気なのかな・・」
「さぁね。もし本気だとしたらうちに押しかけてくるかも・・」
二人がピザを頬張っているとき、再びドアチャイムが鳴り、誰かがドアを叩いている音が聞こえた。
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