一学期の期末テストの結果が出たが、薫はほぼ全滅だった。
「あ~、これで受験は絶望的だわ・・」
「塾の夏期講習行き、決定だね。」
ちらりと妹の成績表を見ながら、美輝子はさっさと鞄に荷物を詰め終わった。
「お姉ちゃんは夏休みどうすんの?部活漬け?」
「そうかもね。宿題は読書感想文と社会の作文だけじゃん。」
「でも塾は毎日宿題あるんだよね・・あ~、もう終わったよあたし!」
「元気だしなよ~!」
妹の肩をポンポンと叩きながら、美輝子は教室から出て行った。
学校から一歩出ると、灼熱の太陽が容赦なく彼女の白い肌を刺した。
日焼けしないように毎日日焼け止めを塗っているが、部活の後は汗で全て流れ落ちてしまう。
新体操部の練習は体育館内で行うので、蒸し風呂状態の体育館で何時間も練習すると、熱中症で倒れそうになるのだ。
女子サッカー部に所属している薫は、最近肌が小麦色に焼けてきていた。
屋外のグラウンドで毎日駆け回っていれば自然とそうなるのだが、同級生の中で薫のように焼けている女子生徒は居ないので、なぜか物珍しがられた。
「あら、みきちゃん。」
早く家に帰りたいあまりに、美輝子が自転車のペダルを漕いで団地の入り口へとさしかかっていると、お節介婆のシノダさんが彼女に近づいてきた。
「こんにちは。」
「ねぇ、あなたのお父さんのことなんだけど・・」
「急いでいるんで、失礼します!」
シノダさんに捕まったら一時間も太陽の下に突っ立っている羽目になるとわかっていた美輝子は、脱兎の如く彼女の元から逃げ出した。
駐輪場に自転車を停め、部屋のドアに鍵を差し込んで中に入ると、美輝子は溜息を吐いてクーラーをつけた。
明日から夏休みだが、薫は早速女子サッカー部の練習で夕方まで帰らないし、父は夜勤だ。
ピザでも取ろうかと美輝子がそう思いながらテレビをつけると、この前観ていて途中で寝てしまった2時間ドラマの再放送がやっていた。
冷蔵庫からコーラのペットボトルと、数日前に開けたポテトチップスを食べながらテレビの前に座って美輝子が2時間ドラマを観ていると、突然ドアのチャイムが鳴った。
(誰かなぁ?)
シノダさんだったら嫌だなと思いながら彼女がドアスコープで外を覗くと、誰もいなかった。
悪戯だと思った美輝子が再びテレビの前に座ると、またチャイムが鳴った。
(何なのよ、もう!)
美輝子が苛立ちながらドアチェーンを掛けてドアを半開きにすると、そこには最近引っ越してきた大学生・内山悟が立っていた。
「みきちゃん、こんにちは。」
「ああ、どうも。何かご用ですか?」
「あのさぁ、中で話したいんだけど、開けてくれないかなぁ?」
悟がニィッと笑いながらそう言った時、美輝子は無言でドアを閉めた。
その後彼がチャイムをしつこく鳴らしたが、美輝子は無視した。
部活で忙しくなる前にさっさと宿題を済ませようと、彼女は適当に自分の本棚から一冊の文庫本を取り出してそれを読み始めた。
「ただいまぁ~!」
夕方6時頃、茹でたこのように真っ赤な顔をした薫がリビングに入るなり、床に倒れこんだ。
「お帰り~。夕飯ピザ頼んどいたよ。」
「ラッキー!お姉ちゃん、なにお母さんのパソコン使ってんの?」
「韓国の友達にメールしてんの。」
「ふぅん。最近帰ってないけどさぁ、ひいお祖母ちゃん元気にしてるかなぁ?」
薫はそう言うと、冷蔵庫からアイスクリームのカップを取り出し、カレー用のスプーンでそれを食べ始めた。
にほんブログ村