「ねぇ悠、クリスマスは一旦うちに帰ってこない?」
「そうしたいんだけど・・」
「大丈夫よ。もうネットでの騒ぎは下火になりつつあるし、あんまり気にすることないんじゃない?帰ってらっしゃいよ。」
「わかった。」
美津子と数週間ぶりに会い、悠はクリスマスを実家で過ごすことに決めた。
「ねぇ、クリスマスは実家に帰ることになったんだけど・・」
「そうか・・それじゃぁ俺はマイケルと二人で過ごすかな。親愛なる親父殿は社交界の集まりで忙しいみたいだし。」
アパートで悠が実家に戻ることを告げると、ジェファーはそう言って笑った。
それを聞いた悠は、少し寂しかった。
「どうした?気分でも悪いのか?」
「ううん・・なんでもない。」
「もしかして、拗ねたのか?」
「そんなことないよ、馬鹿じゃねぇの?」
悠はそう言うと、ジェファーにそっぽを向いた。
それから数日後のクリスマス、悠は久しぶりに実家へと戻った。
「悠、今は何処に住んでるの?」
「ピカデリー・サーカスの近くにあるアパート。詳しいことは後で話すよ。」
「そう。じゃぁディナーの準備を手伝って。」
「うん、わかった。」
悠はエプロンをつけると、キッチンへと向かった。
「ねぇ、あの事件の犯人、まだ見つからないらしいわよ。」
「どの事件の?」
「ほら、サヴォイホテルで殺された人の事件。」
悠の脳裏に、憎悪に顔を歪ませたフェリシアーノの顔が浮かんだ。
「新聞には怨恨による犯行だって書いてあったけど、ネット上で色々とやらかしたらしいよ。」
「そう。まぁあの人も気の毒な人だったんじゃない?この前あの人と親しくしている奥さんと会ったんだけど、色々と苦労したみたいよ。」
「ふぅん、そうなんだ・・」
オーブンでクッキーを焼きながら、フェリシアーノがどんな人物だったか悠はわからなかった。
一体何故、あそこまで彼は暴走してしまったのか。
「さぁ、出来たわ。さてと、ケーキは後で持っていきましょう。」
「うん、わかった。」
クリスマスの夜、悠は食卓を家族で囲みながら、久しぶりに楽しい時間を過ごした。
一方ジェファーは、病院でマイケルと1個のケーキを二人で分け合いながらクリスマスを祝った。
「プレゼントは用意してなかった。」
「まぁ、あんなことがあったからいいさ。それにしても今年は色々とあったな。」
「ああ・・」
「来年は良い年になって欲しいもんだ。」
「そうだな。」
二人は笑い合いながら、エールで乾杯した。
「あっという間に2005年も終わるのねぇ。正月を過ぎたらあっという間だわ。」
「そうだね。何だか1年が経つのが早すぎて、このまま年を取るのかと思うとゾッとしちゃうよ。」
「それはわたしの台詞でしょう?あなたはまだ若いんだから、そういう心配はしなくていいの!」
「はいはい、すいませんでした。」
悠はそう言いながら、ペロリと舌を出した。
クリスマスの夜は、静かに更けていった。
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Last updated
2012.12.25 22:35:01
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