「地元で獲れたお魚、お野菜いかがですか~!」
「K町名物ひし饅頭(まんじゅう)、美味しいですよ~!」
歳三と近藤が荻野千尋の故郷・K町にある道の駅に入ると、店内では名産物を売る売店の売り子たちが元気よく客寄せをしていた。
「なぁ、あれうまそうじゃないか?」
「おい近藤さん、俺達はここに遊びに来たんじゃねぇんだ。」
「でもなぁ・・K町なんて滅多に行ける所じゃないし・・それに、親父たちから土産を頼まれたんだよ。」
「ったく、仕方ねぇなぁ・・」
歳三はそう言って舌打ちすると、フードコートの前にある土産物店の中へと入った。
「いらっしゃいませ~!」
「済まねぇが、美鶴楼って遊廓何処にあるのか知らねぇか?」
「ああ、あそこなら数年前に潰れましたよ。」
「潰れた?結構繁盛していたと、ここに寄る前駅長さんから聞いたが・・」
「美鶴楼があった所はねぇ、江戸時代から続く芸者の置屋さんや遊廓さん、料亭が軒を連ねていたんですが、10年前ですかねぇ、なんちゃらショックっていうのが起きて、その影響を受けて美鶴楼は潰れちゃったんですよ。」
「へぇ、そうですか・・それじゃぁ、その女将さんが今何処に居るのか、知りませんかねぇ?」
「あたしは地元の人間じゃないから、詳しい事はよう知りませんねぇ。」
「有難うございました。あ、お話を聞かせて貰った礼としては何ですが、あちらに置いてあるひし饅頭30個入り、おひとつ頂けませんか?」
「ありがとうございます、1500円になります。」
土産物店を後にした歳三は、近藤が待つフードコートへと向かった。
「ほらよ、土産買ってきたぜ。」
「荻野千尋の養母が今何処に居るのか、わかったのか?」
「土産物店の店員にそれとなく聞いてみたが、美鶴楼は10年前に潰れて、女将が今何処に居るのか知らねぇとさ。」
「10年前といやぁ、リーマンブラザーズ・ショックっていうのが起きたなぁ。その影響を受けて、テレビのCMで流れているようなデカイ会社が何軒か潰れたよなぁ。」
「ああ。昔は大企業に就職出来れば定年まで安心して勤められるって言われていたが、今はそんな大企業でも倒産の憂き目に遭うのが当たり前だ。大学生が公務員になりたがっている理由、わかるか?」
「公務員は安定しているから、リストラに遭う事がないからいいってことだろう?そんなに世の中甘くはないのになぁ・・今時の若い者は失敗を恐れて、安定した職業に就きたがるんだよなぁ。」
「まぁ、そんなの今に言えたことじゃねぇよ。近藤さん、昼飯どうする?」
「ラーメンは少し飽きて来たから、旅行を兼ねてここに来たんだから、豪勢にステーキでも食うか。」
「ステーキねぇ・・」
歳三はそう言うと、フードコートの中にあるステーキ屋の看板を見た。
「いいんじゃねぇか、たまにはそういうものを食っても。」
「そうか、じゃぁ混む前に注文しよう!」
近藤と歳三がステーキ屋のレジでそれぞれ料理を注文して席に戻ると、ちょうど観光客を乗せた大型バスが道の駅の駐車場に入ってくるところだった。
「結構賑わっているなぁ・・」
「ここはグルメスポットとしてネットで取り上げられて有名になった所だからな。まぁ、K町の一番の観光スポットは、温泉街だな。」
「あそこは風情があるからなぁ。最近では時代劇のロケが行われたことでも有名になったもんなぁ。」
近藤はそう言うと、鞄の中からスナック菓子を取り出した。
「あんた、昼飯前に間食するつもりなのか?」
「小腹が減って仕方がないんだよ。見逃してくれよ、トシ。」
「これは没収だ。」
歳三は近藤の手からスナック菓子を奪うと、それを自分の鞄の中にしまった。
「そんなぁ~」
「ガキみてぇに喚くんじゃねぇ!」
近藤に歳三がそう一喝した時、ステーキ屋で渡されたベルが鳴った。
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