イラスト素材提供:White Board様
「千尋さん、御機嫌よう。そちらの方は、あなたのご主人なの?」
「ええ。山梨に女学校を作るというので、このパーティーはその資金集めに開かれたものなのよ。」
「まぁ、そうなの。」
玲子はそう言うと、美しく着飾った千尋をじっと見た。
「紀洋兄様、お久しぶりです。」
「千尋、そんな格好をしてまた僕たちに恥をかかせるつもりなのか?」
「わたくしは、歳三様と夫婦としてこのパーティーに出席しているだけですわ。それよりも紀洋兄様たちは、一体何をしにこのパーティーにいらしたのですか?」
「何をしにって、大鳥様に会う為に来たに決まっているでしょう。」
「大鳥様に何かご用なのですか?」
「そんな事、あなたには関係のないことよ。行きましょう、紀洋さん。」
玲子は千尋を睨みつけ、夫とともにロビーから去っていった。
「あいつらが、お前を昔苛めていた二番目の兄貴と、その嫁さんか?」
「ええ。」
千尋と歳三が大広間に戻ると、大鳥と紀洋達が何やら会場の隅で話をしていた。
「おや、誰かと思えば土方君じゃないか。」
「お久しぶりです、太田さん。」
二人がシャンパンを飲んでいると、そこへ羽織袴姿の恰幅の良い男がやって来た。
「歳三様、そちらの方は?」
「千尋、この方は地主の太田さんで、俺の提案に理解を示してくださっている方だ。」
「初めまして、歳三の家内の、千尋と申します。」
「ほぉ、君が噂の・・土方君から君の話は聞いているよ。何でも、東京の女学校で学ばれているとか?」
「ええ。女学校では毎日お友達と楽しくおしゃべりしたり、部活動に励んだりしていますわ。」
「それは良かった。千尋さん、部活動は何をなさっているのかな?」
「護身術部ですわ。わたくしは部長として、部員達に薙刀や合気道を教えております。」
「ほう、それは面白そうだな。土方君、わたしはこれで。」
太田はそう言って歳三の肩を叩くと、大広間から出て行った。
「俺はちょっと大鳥さんに挨拶をしてくるから、お前はここに居ろ。」
「わかりました。」
歳三が大鳥の元へと向かうと、そこにはまだ紀洋と玲子が居た。
「お願いいたします、大鳥様。どうか・・」
「くどいね、君達。僕は金貸しを生業にしているつもりはないんだ。」
大鳥はそう言うと、自分に金の無心をする紀洋と玲子を睨んだ。
「大鳥さん、何かあったのか?」
「いや、別に何もないよ。土方君、もう帰るのかい?」
「ああ。さっき地主の太田さんと挨拶してきたから、もう俺がここに居る必要もないだろうと思ってな。」
「そうか。気を付けて帰ってね。」
「わかった。」
大鳥に背を向け、歳三は千尋とともに大広間から出た。
「何だかつまらないパーティーだったな。」
「ええ。」
「さっき、あの二人が大鳥さんに金の無心をしていたぜ。」
「まぁ・・そんなことをあの二人がしていたのですか?大鳥様は何と?」
「金貸しを生業にしているつもりはないと二人に言っていた。あの人、終始あの二人に向かって笑顔を浮かべていたが、結構怒っていたと思うぜ。」
「それはそうでしょうね。」
パーティーから数日が経ったある日のこと、千尋の元に荻野家から電報が届いた。
“チチキトク、スグニコラレタシ”
「どうした、千尋?」
「先ほど荻野の家から電報が届いて・・お父様が危篤だそうです。」
「行ってやれ。色々と蟠(わだかま)りはあるだろうが、お前ぇの親父さんは一人しかいねぇ。」
「わかりました・・」
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