イラスト素材提供:White Board様
電報を受け取った千尋は、女学校を出て荻野家へと向かった。
「千尋様・・」
「お父様はどちらに?」
「二階のお部屋です。」
「有難う・・」
千尋が二階の父の寝室に入ると、そこには道貴・紀洋夫妻と由美子、春貴の主治医の大西、そして荻野伯爵家の顧問弁護士・西門の姿があった。
「お父様、千尋が来ましたよ。」
「千尋、来てくれたか・・」
春貴は苦しそうに喘ぎながら、そう言うと千尋に向かって手を伸ばした。
「お父様、しっかりなさってください!」
「道貴、この家を頼む・・」
「父上・・」
「父上、しっかりしてください!」
「あなた、まだ逝ってはなりません!」
「お父様・・」
「千尋、誰が何と言おうと、お前はわたしの可愛い息子だ。」
春貴はそっと千尋の頬を撫でると、そのまま永遠の眠りに就いた。
「午前10時20分、ご臨終です。」
「あなた~!」
由美子は春貴の体に覆い被さると咽び泣いた。
「千尋、お前の所為だ。お前の所為で、父上は死んだんだ!」
「止めないか紀洋、父上が死んだのは千尋の所為じゃない!」
千尋に殴りかかろうとする紀洋を、道貴は必死に止めた。
「兄上、いつまで善人面しているおつもりですか?兄上だって、心の底ではこいつが憎くて仕方がなかったのでしょう!」
「頭を冷やせ、紀洋!」
弟の言葉を聞いてカッとなった道貴は、弟の顔を拳で殴った。
「やったな!」
紀洋はそう叫ぶと、道貴の頬を拳で殴り返した。
「おやめなさい、二人とも!お父様の前ですよ!」
由美子はそう言うと、道貴と紀洋を交互に睨みつけた。
「千尋様、お部屋で休んでください。」
「わかりました。」
千尋は父の寝室から出ると、自分の部屋に入った。
「お義母様、お義父様の遺産のことでお話があるのですが・・」
「玲子さん、あなたという方は、二言目にはお金の事ばかり!舅が亡くなったというのに、何も感じないの!?」
「わたくし、そんなわけでは・・」
「もう、ここから出て行って!あなたと話をしたくありません!」
「すいません・・」
姑から舅の寝室へと追い出された玲子は、そのまま千尋の部屋へと向かった。
「千尋さん、入るわよ。」
「ノックもなさらないで、何のご用ですか?」
「あなた、いつまでここに居るつもりなの?」
「お父様の四十九日が過ぎるまで、ここに居るつもりですが・・それが何か?」
「あなた、妾の子のくせに荻野家の財産を狙っているのね?そうはさせないわよ!」
「玲子義姉様は、お金の事しか頭にないのですか?お父様が亡くなられたばかりだというのに・・そんなにも、ご実家が危ないのですか?」
「お黙り、あなたに何がわかるのよ!」
玲子はそう言って千尋を睨むと、ドアを蹴って部屋から出て行った。
“歳三様、父が亡くなったので、暫く実家に滞在することになりました。女学校設立に向けて、頑張ってください、千尋より”
女学校で千尋の手紙を受け取った歳三は、それを読み終わると、そのまま手紙が入った封筒を机の上に置いた。
「土方様、失礼します。」
「どうぞ。」
歳三がドアを開けると、千尋の級友である神田詩織が入ってきた。
「何か俺に用ですか?」
「あの、噂に聞いたのですけれど・・土方様は、あの新選組の元副長であるというのは、本当ですの?」
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