イラスト素材提供:White Board様
「おはようございます、千尋様。朝食の準備が出来ました。」
「有難うございます、永田さん。」
「玲子さまは、軽井沢の精神病院に入院されました。」
「そうですか・・」
紀洋の死後、完全に正気を失った玲子は、軽井沢にある精神病院に入院した。
「千尋、玲子さんのことは永田から聞いているわね?」
「ええ。奥様、わたくしはもう女学校に戻っても宜しいのですか?」
「これ以上、あなたをこの家に閉じ込めておく理由などありません。千尋、すぐに女学校に戻りなさい。」
「わかりました・・」
朝食の後、千尋は荻野家を出て女学校へと戻ると、歳三が笑顔で彼を出迎えた。
「お帰り、千尋。」
「只今帰りました、歳三様。」
歳三は部屋で、紀洋が玲子に殺されたことを千尋から知らされて絶句した。
「そうか・・色々と大変だったな。」
「はい。歳三様や皆さんにも心配をおかけしてしまって申し訳ないです。」
「お前が無事でよかった。」
歳三はそう言うと、千尋を抱き締めた。
昼食の時間、千尋が歳三とともに食堂に入ると、香織達が二人の元に駆け寄って来た。
「千尋様、お帰りなさい!」
「連絡がなかったから、何かあったのかと思ってしまったわ!」
「皆さん、心配をおかけしてしまってごめんなさい。」
千尋がそう言って香織達に頭を下げた。
「歳三様、まだ起きておられますか?」
「ああ。」
その日の夜、千尋がベッドから起きると、机に座った歳三が何か書き物をしていた。
「何を書いていらっしゃるのですか?」
「政府への嘆願書を書いていたんだ。」
「そうですか。余り無理なさらないでくださいね。」
「わかったよ。お前ぇも疲れているんだから、早く休め。」
「わかりました、お休みなさいませ。」
千尋はそう言って歳三の頬に唇を落とすと、ベッドに戻った。
翌朝、千尋が歳三とともに食堂で朝食を食べていると、突然外で大きな音がした。
「何かしら?」
「さぁ・・」
「歳三様、今のは・・」
「気にするな。千尋、早く飯食わないと授業に遅れるぞ。」
「わかりました。」
千尋がコーヒーを一口飲むと、食堂の扉が開き、腰に日本刀を帯びた数人の警官たちが中に入ってきた。
「何ですか、あなた達?」
「土方歳三だな?」
「ああ、そうだが・・俺に何か用か?
「貴様を、国家叛逆の罪で逮捕する!」
警官たちの中から一人の警官が出て来ると、歳三を連行した。
「何をなさいます、うちの主人が何をしたというのですか?」
千尋はそう言うと、警官の手を掴んだ。
「退いてください。我々を邪魔するようであれば、あなたも逮捕致します。」
警官はそう言うと、千尋を押しのけた。
「あなた、どうして・・」
「きっとこれは何かの間違いだ。すぐに帰って来るから、心配するな。」
「わかりました。」
警官たちに連行される歳三の背を、千尋は不安そうな表情を浮かべながら見送った。
にほんブログ村