イラスト素材提供:White Board様
翌朝、歳三と面会するために、千尋は彼の身柄が拘束されている警察署へと向かった。
「土方歳三の妻の、千尋でございます。主人と面会したいのですが・・」
「申し訳ないが、面会は禁止されている。」
「まぁ・・では、着替えを主人に渡してくださいませ。」
千尋はそう言うと、立ち番をしている警官に歳三の着替えが入った風呂敷包みを手渡し、警察署を後にした。
「千尋様、ご主人とは会えたの?」
「いいえ。」
「きっとすぐに帰って来るわ、心配しないで。」
「ええ・・」
女学校に戻った千尋は、勉学や部活動に励みながら歳三の帰りを待った。
だが、一ヶ月を過ぎても歳三は千尋の元に帰って来なかった。
(一体どうなったのだろうか?)
歳三が投獄されて二月余りが過ぎたころ、女学校に大鳥がやって来た。
「大鳥様、お久しぶりでございます。」
「千尋君、土方君のことは聞いているね?」
「はい。夫は国家叛逆などを企てておりません。誰かが夫を嵌めたに違いありません。」
「僕だって、土方君がそんな事を考えるなんて思ってもいないし、土方君を信じているよ。」
「では何故、主人はいつまで経っても投獄されたままなのですか?」
「それはね、新政府による旧幕府軍の残党狩りの所為なんじゃないかと思っているんだ。」
「残党狩り?」
「新選組の土方といえば、官軍側だった薩摩・長州にとっては憎むべき敵だ。その土方が戊辰の戦では死なず、明治の世に生きていると・・誰かが警察に密告したのではないかと、僕は思っているんだ。」
「そうですか・・だとすれば、誰が警察に主人のことを密告したのでしょう?」
千尋は大鳥の言葉を聞きながら、詩織の父が昔歳三に京都で会ったという話を思い出していた。
「大鳥様、もしかしたらと思うのですが、京都で主人と刃を交えた方が、警察に主人が新選組の元副長だと密告したのではないかと・・」
「その可能性はあるかもしれないね。僕はこれから、警察に土方君を釈放するよう話をしてくるよ。」
「わたくしも行きます。」
「君はここで待っていた方がいい。」
「わかりました・・」
「じゃぁ、僕はこれで失礼するよ。」
大鳥が女学校から出て行った後、千尋は自分の部屋で大鳥が歳三を連れて帰って来るのをじっと待っていた。
「千尋様、もう夕食の時間よ。」
「ごめんなさい香織様、少しぼうっとしていて・・」
「最近お食事にも余り手をつけていないから、皆さん心配していらっしゃるわよ。」
香織はそう言うと、少し頬が痩せた千尋を見た。
夕食を取るために千尋が香織とともに食堂に入ると、そこには歳三の姿があった。
「歳三様・・」
「長い間、留守にしていて済まなかったな。」
「ご無事で何よりです。」
千尋は両目に涙を溜めながら、二月ぶりに歳三と再会を果たした。
「大鳥さんが助けてくれなかったら、俺はあのまま牢の中で朽ち果てていただろうな。」
「大鳥様に後でお礼を言わなければなりませんね。」
「そうだな・・」
夕食の間、千尋は詩織が自分達の方をチラチラと見ていることに気付いた。
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