イラスト素材提供:White Board様
「実は、女学校設立について反対の声が多くてね・・しまいに彼らは、女学校の為に金を出すわたしのことをどうかしているとか言い出してねぇ・・」
「数日前、俺の家に反対派の住民達が押しかけてきました。」
「そうか、君のところにも彼らが来たのか・・」
「彼らが言うには、女には学など必要ないと・・」
「まぁ、ここら辺は農家が多いから、女子供らは貴重な労働力だ。女学校で娘たちが勉強をする時間よりも、家の仕事を手伝ってくれた方がいいと彼らは思っているのだろう。」
「そうですか・・」
山梨に女学校を―歳三の夢の実現には、大きな壁が立ちはだかっていた。
「歳三様、これからどうなさいますか?」
「俺が簡単に諦めると思うか?」
「いいえ。あなたは強い方です。一度決めたことは、何があっても必ずやり遂げる方です。」
「その言葉を、お前の口から聞きたかったんだ。」
歳三はそう言うと、千尋に微笑んだ。
太田が土方家を訪れてから四日後、歳三と千尋は女学校設立の反対派住民達を教室に集めて会合を開いた。
「皆さんのお気持ちは、よく解ります。ですが、これからの時代女性が学問を修め、社会的に自立する必要が・・」
「そんな難しいことは、おれらにはわからんずら!」
「だいたい百姓に、読み書きなんて必要ねぇさぁ!」
「女学校に娘を行かせるよりも、どこか奉公に出した方がいいさぁ!」
反対派の住民達の心を変えるのは至難の業だと千尋は思った。
「そうですか・・では、裁縫学校として生徒を募集するのは、どうですか?」
「裁縫学校?」
「ええ。卒業後、生徒たちは即戦力として社会で働くことができます。」
「それだったら、悪くはねぇな。」
「そうだなあ・・」
「なぁ千尋、裁縫学校を甲府に設立することが本当にできるのか?」
「それは、やってみなければわからないでしょう。」
「まぁ、そうだなぁ・・」
「裁縫学校といっても、生徒達に教えるのは裁縫だけではなく、英語や和歌などの教養科目も取り入れたいと思っております。」
「国の許可が下りるかどうかだよなぁ・・」
「そうですね。歳三様、わたくし明日太田様にお会いして、もう一度学校のことをお話してみます。」
「わかった。」
翌日、千尋が太田家へと向かうと、母屋には太田の妻・清が使用人達に仕事の指示を出していた。
「清様、お久しぶりでございます。」
「あら、千尋さん。あんた、山梨に女学校をつくることで、村人たちと揉めたんだってね?」
清はそう言うと、千尋を睨みつけた。
「ええ。そのことで太田様とお話がしたいのですが、ご在宅でしょうか?」
「ああ、うちの人は所用で東京に出かけていてねぇ。夕方まで戻らないよ。」
「そうですか、では改めてまた伺わせて頂きます。」
「済まないねぇ、折角来てくれたっていうのに。」
清の視線を背後に感じながら、千尋は太田商店を後にした。
「女将さん、あの方は?」
「ああ、あの人は土方さんの奥さんさ。何でも東京の女学校に行っているんだと。」
「へぇ・・とても綺麗な人ですねぇ。」
「あんた、見かけに騙(だま)されちゃぁいけないよ。結構あの人、やることはやるんだから。」
清は鼻を鳴らすと、店の奥へと消えた。
「女将さん、美晴お嬢様が発作を・・」
「今、あの子は何処にいるんだい?」
「今お医者様がいらして、美晴お嬢様にお薬を飲ませました。」
「そうかい・・あの子に何かあったら、あたしゃぁ死んでも死にきれないよ。」
清が一人娘・美晴の部屋に向かうと、美晴は布団で寝ていた。
美晴は、清が太田と結婚して五年目に漸く授かった自分の命よりも大事な存在だった。
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