イラスト素材提供:White Board様
「清、美晴がまた喘息の発作を起こしたそうだな?」
「ええ。でもお医者様が来てくれてお薬をあの子に飲ませたから、今は落ち着いていますよ。」
「そうか・・」
太田はそう言うと、娘の寝顔を覗き込んだ。
「清、今日は誰か客が来ていなかったか?」
「土方さんが昼間お見えになられましたよ。何でも、女学校のことで話があるとかで・・」
「すまないが、土方さんをここに呼んできてくれないか?」
「わかりました。」
千尋が自宅で夕飯の支度をしていると、戸を誰かが叩く音がした。
「どちら様ですか?」
「清です。」
「まぁ女将さん、お忙しいのにわざわざうちに来てくださるなんて・・今お茶を・・」
「茶は要らないよ。うちの人が呼んでいるから、あたしと一緒にうちに来ておくれ。」
「わかりました。今支度をして参ります。」
数分後、千尋は清とともに太田家へと向かった。
「あなた、土方さんをお連れしましたよ。」
「土方さん、こんな時間に済まないねぇ。さぁ、上がってくれ。」
「はい。」
「今日は、女学校のことでわたしと話をしたいとか・・」
「ええ。昨日、女学校設立に反対している住民の皆さんを集めて会合を開きました。」
「何かされなかったかい?」
「予想していた事は色々と言われましたが、わたしが女学校ではなく裁縫学校を建てたらどうかと言ったら、皆さん賛成してくださいました。」
「裁縫学校、ねぇ・・」
「裁縫学校ならば、卒業後生徒達は即戦力として社会に出て働くことができますから・・如何でしょうか?」
「悪くはない案だね。ただ、それで国の許可が下りるかどうかが問題だが・・」
太田はそう言って低く唸ると、咥えていた煙管の中に火をつけた。
「明日、主人と二人でこちらに伺います。」
「土方さん、わたしもできる限りあなたのご主人を援助しようと思っている。だから、困った時は何でもわたしに声を掛けてくれ。」
「有難うございます、太田さん。それでは、これで失礼いたします。」
「うちの者に家まで送らせますよ。こんな田舎でも夜道の一人歩きは物騒ですからねぇ。」
「有難うございます、奥様。」
「それじゃぁ、お気をつけて。」
千尋が太田家を出て、太田家の使用人・義郎とともに夜道を歩いていると、突然彼らの前に数人の男達が現れた。
「何ですか、あなた方?」
「お前ぇか、新選組の残党の女房って奴ぁ?」
(この人たち、歳三様の事を知っている!)
「わたくしをどうなさるおつもりですか?」
「なぁに、少し痛めつけるだけさ。ちょいとおとなしくしていれば、すぐに済む。」
男達は下卑た笑みを口元に浮かべながら、そう言って千尋の頬にひたと匕首を当てた。
「そんな物騒なものをおしまいなさい、無礼者。」
「俺ぁ気の強い女が好みでねぇ。特にあんたみてぇな武家娘は、最高さぁ。」
千尋の頬に匕首を当てている男がそう言って彼の尻を触ろうとした。
その時、彼の身体が突然宙を舞った。
「おい、大丈夫か?」
「汚い手でわたくしに触れるから、痛い目に遭うのですよ。」
「このアマ、ふざけやがって!」
「義郎さん、今来た道を戻ってください。」
「わ、わかりました!」
義郎が悲鳴を上げながら夜道を走っていくのを見送った千尋は、まるで獣のように歯を剥き出しにして唸る二人の男を睨みつけた。
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