イラスト素材提供:White Board様
大岩と千尋の結婚式と披露宴は、赤坂のホテルで盛大に行われた。
純白のウェディングドレスを纏った千尋は、まるで天から舞い降りてきた天使のように美しかった。
「千尋さん、ご結婚おめでとう。」
「お幸せにね。」
「有難う、皆さん。」
千尋は級友たちにそう言って微笑むと、激しく咳込んだ。
「大丈夫?」
「ええ、少し風邪をひいてしまって・・」
「余り無理をなさらないでね。」
「わかったわ・・」
「千尋さん、そんなところで何をしているの!まだ挨拶回りが終わっていないのだから、早く来なさい!」
「はい、奥様。」
病み上がりの身体に鞭打ちながら、千尋は由美子とともに新郎親族へ挨拶回りに行った。
「綺麗なお嫁さんやねぇ、まるで西洋人形みたいな顔しとる!」
「建吾さんも、こんなに若い嫁さんを貰うて、腹上死せんようにね!」
「はは、わしはもう年じゃ、そげな事をする元気はなか!」
親族からそうからかわれ、大岩はそう言って豪快に笑った。
「大岩様、どうか千尋のことを宜しくお願いしますね。」
「由美子さん、千尋さんのことは大事にするけん、あんたは何も心配することはなか。」
「ええ、わかりました。」
「本当に、お義母様は千尋さんを荻野の家から追い出そうとしているのね。」
「千尋は、家の為に犠牲になって・・わたし達はどうすることもできない。」
「可哀想な千尋さん・・ああやって笑顔を浮かべているけれど、心の中では沢山泣いていることでしょうね。」
披露宴が終わり、千尋は大岩とともに初夜を迎える部屋に入った。
「漸く二人きりになれたな?」
「ええ・・」
「緊張しとるか?さっきから手が震えとるぞ?」
「そんなことは、ありません・・」
「まぁ、夜は長い。」
大岩はそう言うと、羽織を乱暴に脱ぎ捨て、袴の紐を解いた。
「大岩様、わたくしは先に休ませていただきます。」
千尋がそう言って大岩に背を向け、寝室に入ろうとすると、その手を大岩が掴んで千尋を自分の方へと引き寄せた。
「何をなさいます!」
「お高くとまらんでもよか。もうわしらは夫婦になったんじゃ。」
「やめて、離してください!」
大岩は千尋とともに寝室に入ると、ベッドの上に千尋を押し倒し、彼の帯を乱暴に解いた。
「歳三様・・」
「別れた男の名を呼ぶとは、わしは嫌われとるな・・」
大岩はそう呟くと、千尋から離れた。
「わしは向こうで寝る。」
「大岩様・・」
「わしは嫌がる嫁を無理矢理抱く趣味はなか。」
大岩はそう言って千尋に背を向け、寝室から出た。
数日後、千尋は大岩とともに彼の故郷である筑豊へと向かった。
「千尋さん、身体に気を付けて。」
「はい。道貴兄様達も、お身体に気を付けてください。」
「千尋、本当にお前には済まないことを・・」
「もういいのです、謝らないでください。」
千尋はそう言うと、道貴の手を握った。
汽笛が鳴り、千尋と大岩を乗せた汽車がゆっくりとプラットフォームから離れようとした時、千尋は自分に向かって歳三が手を振っていることに気付いた。
「歳三様!」
「千尋、元気でな~!」
「歳三様!」
千尋は歳三の姿が徐々に小さくなってゆくのを見て、涙を流した。
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