イラスト素材提供:White Board様
「先生、弟の容態は?」
「弟さんは心労が溜まって、それが原因で風邪を拗らせてしまったのでしょう。暫く弟さんをそっとしておいてください。」
「有難うございます・・」
往診に来た医師に礼を言うと、道貴は千尋の部屋のドアをノックした。
「道貴兄様、ご迷惑をお掛けしてしまって申し訳ありません。」
千尋は苦しそうに咳込みながらベッドから起き上がると、そう言って道貴に謝った。
「謝るな、千尋。謝るのは、わたし達の方だ。」
道貴はそう言うと、千尋を抱き締めた。
「今はゆっくり休め。」
「わかりました。」
その日の夜、甲府に居る歳三の元に、一通の手紙が届いた。
その手紙は、道貴のものだった。
手紙には、千尋が高熱をだし、うわ言で歳三の名を呼んでいることが書かれていた。
「千尋・・」
歳三は涙を流しながら、道貴の手紙を抱き締めた。
「道貴、あの子の様子はどうなの?」
「母上、千尋はまだ熱を出して寝込んでいますよ。」
「まったく、こんな時に風邪をひくなんて、自己管理がなっていないわね!」
由美子はダイニングルームを右往左往しながら、そう言って溜息を吐いた。
「母上、千尋が回復するまで大岩様との婚礼を遅らせて貰えませんか?」
「そのような事、出来るわけがないでしょう!」
由美子はキッと道貴を睨みつけると、そのままダイニングルームから出て行った。
「お義母様、千尋さんがまだ寝込んでいるというのに、大岩様との婚礼を強行させるつもりなのかしら?」
「母上は、千尋の事よりも金の事しか考えていない。」
千尋はベッドで寝返りを打ちながら、苦しそうに咳込んだ。
「千尋、入るわよ。」
由美子はノックもせずに千尋の部屋に入ると、ベッドで寝ている彼の頬を打った。
「いつまでベッドで寝転がっているつもりなの、早く起きなさい!」
「申し訳ございません、奥様・・」
「わかったら、さっさと風邪を治しなさい。あなたがいつまでも寝込んでいると、わたくしが恥をかくのよ!」
由美子がそう叫んで部屋のドアを乱暴に閉めると、埃が千尋の周りに飛び散った。
(歳三様・・)
千尋は激しく咳込みながら、懐から櫛を握り締め、目を閉じた。
季節は雪が舞い散る冬を迎え、千尋が寒さに震えながらベッドから出てダイニングルームに入ると、そこには由美子がダイニングテーブルに座って紅茶を飲んでいた。
「あら、あなた起きていたのね。」
「おはようございます、奥様。」
「熱は下がったの?」
「はい・・」
「あなたの所為で、婚礼が遅れてしまったのですから、これ以上わたくし達に迷惑を掛けないで頂戴ね。」
「わかりました。」
千尋はそう言って紅茶を一口飲むと、ダイニングから出て行った。
「千尋、もう大丈夫なのか?」
「はい。熱はもう下がりましたし・・」
「そうか。でもまだ本調子じゃないから、無理しないでくれ。」
「はい、道貴兄様。」
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