イラスト素材提供:White Board様
「随分とあの男と楽しそうに話をしとったな?」
「あなた・・」
「帰るぞ。」
大岩はそう言って千尋の腕を掴むと、大広間から出て行った。
「何をなさいます!」
「お前はわしの女房たい。他の男に色目を使うとは、けしからん!」
パーティーから帰宅した大岩は、そう言うと千尋を睨んだ。
「あら、あなたには初さんがいらっしゃるじゃありませんか。それなのにどうして、わたくしだけ責められなければいけないのかしら?」
「黙らんか!」
「いいえ、黙りません。初さんはご自分がこの家の女主人だと勘違いなさっているようですけれど、この家の女主人はわたくしです。そのことを、あなたの口から彼女に伝えておいてくださいな。」
「きさん、わしに口答えする気か!」
大岩は千尋の頬を平手で打った。
「何をなさるの!」
千尋も負けじと、大岩の頬を平手で打った。
「この・・よくもわしに逆らったな!」
大岩は怒りに血走った目で千尋を睨みつけると、彼の首を両手で絞めようとした。
「社長、おやめください!」
部屋の襖が開け放たれ、杉村が千尋と大岩との間に割って入った。
「大杉、離さんか!」
「どうか落ち着いてください、社長!」
「こいつは俺を馬鹿にしとる!こいつには、力で思い知らさんといかん!」
大岩がそう言って千尋に拳を振り上げようとしたとき、千尋は胸を押さえて畳の上に蹲った。
「奥様、どうなさったのですか?」
「胸が・・」
「誰か、お医者様を!」
大杉は、自分の腕の中で苦しそうに呼吸をしている千尋の手を握った。
「先生、千尋は・・」
「奥様は、心臓がお悪いようですね。余り心労を掛けさせないようにしてください。」
「わかりました。」
往診に来た医師が部屋から出ていくと、大岩は布団に寝ている千尋の手を握った。
「わしの所為たい。」
「社長、奥様のことを労わってあげてください。」
「わかった。」
千尋が目を開けると、そこは自宅の布団の上だった。
「千尋、気が付いたか?」
「あなた・・わたくし、どうして・・」
「お前は胸を押さえて倒れたんじゃ。医者には、余り心労を掛けさせんようにしろと釘を刺されたたい。」
「あなた、わたくし・・」
「何も言うな。今は、ゆっくり休め。」
「はい・・」
大岩が部屋から出た後、千尋は再び目を閉じて眠った。
年が明け、甲府に居る歳三は三月に控えた裁縫学校開校に向けて忙しく働いていた。
彼は寝る間も惜しんで、毎日書類仕事に勤しんでいた。
だが、その無理が祟ってしまい、彼は畑仕事の最中に熱を出して倒れてしまった。
「土方さん、あんたは働き過ぎずら。少し休んだ方がいい。」
「すいません、太田さん。」
「謝らなくてもいい。」
その日の夜、歳三の元に大岩から文が届いた。
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