※BGMとともにお楽しみください。
「結婚式、ですか?」
「ああ。お前が退院したらすぐに挙げようと思っているんだ。」
「でも、結婚式は来年の6月末に挙げる予定じゃぁ・・」
「お前が病気になって、俺は不安で堪らなかった。」
歳三はそう言うと、千尋の手を握った。
「いつお前が死ぬんじゃないかと思うと、辛くて堪らなかった。でもお前は、俺の元に帰って来てくれた。」
「歳三さん・・」
「俺の我が儘を一度くらい、聞いてくれてもいいだろう?」
「わかりました。でも歳三さん、結婚式はいつ挙げるんですか?」
「二週間後のクリスマスだ。それまでに、元気になれよ。」
「はい。」
琴子の肺を移植した千尋は、心配されていた臓器の拒絶反応や術後の後遺症はなかった。
「このままだと、明日退院できますよ。」
「そうですか。」
結婚式の日まであと数日を控えた日の朝、千尋は看護師からそんな言葉を聞いて思わず嬉しそうに笑った。
「どうしたの千尋ちゃん、そんなに嬉しそうな顔をして。」
「沖田先輩、お久しぶりです。」
「久しぶり。今までの事は、全部土方さんから聞いたよ。」
見舞いに来た総司は、そう言うとベッドの端に腰掛けた。
「さっき看護師さんから、明日には退院できるだろうって言われたんです。」
「へぇ、それは良かったね。結婚式は明後日挙げるんでしょう?」
「ええ。沖田先輩、ひとつ頼みがあるんですが、いいですか?」
「なに?」
千尋は総司の耳元で、何かを囁いた。
「わかった。」
「有難うございます、先輩。」
「土方さん、千尋の事を支えてくれて有難う。」
「そんな、お礼を言われるほどのことはしていません。」
荻野家のリビングで、歳三はそう言うと育子を見た。
「あの子のことを、宜しくお願いしますね。」
「こちらこそ、これから宜しくお願いします、お義父さん、お義母さん。」
2014年12月25日―クリスマス。
横浜市内にあるカトリック教会で、千尋と歳三は永遠の愛を誓い合った。
純白のウェディングドレスを纏った千尋は、まるで天から舞い降りた天使のようだった。
「千尋、これから宜しくな。」
「はい。」
誓いのキスを交わした二人が教会の外に出ると、白い雪が二人の未来を祝福するかのように降っていた。
『幸せにおなりなさい。』
ふと聞き覚えがある誰かの声が背後で聞こえ、千尋は振り返ったが、そこには誰も居なかった。
「千尋、どうした?」
「いいえ、何でもありません。」
そう言って再び千尋が礼拝堂の方を見ると、あの湖で会った女性が彼に笑顔を浮かべながら手を振っていた。
(彼と幸せになります。助けていただいて、有難うございました。)
―完―
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