1875年12月18日、ウィーン市内の教会で、エルンストとエリザベスは結婚式を挙げた。
結婚式の参列者には、両家の家族と友人、そしてルドルフと環が居た。
『ご結婚おめでとう、お二人とも末永くお幸せにね。』
『有難うございます、タマキ様。』
『エルンスト、生涯の伴侶を大切にしろよ。』
『解りました、皇太子様。』
新郎新婦の元へ挨拶に向かったルドルフは、幸せそうな二人の姿を見て思わず頬が弛んだ。
『その様子だと、家族が増えるのは時間の問題だな?』
『皇太子様、そんな・・』
『照れなくてもいいだろう?』
エルンストがルドルフの言葉を聞いて頬を赤く染めていると、そこへ盲導犬を連れたゲオルグと、彼の長兄であるマリウスが彼らの元にやって来た。
『殿下、お忙しい中弟の結婚式にご出席してくださり、有難うございます。』
『ゲオルグ、元気そうでよかった。そちらの方は?』
『初めまして皇太子様、ゲオルグとエルンストの兄の、マリウスと申します。』
ダークブラウンの髪と翠の瞳を持ったマリウスは、そうルドルフに自己紹介すると彼に向かって右手を差し出した。
『貴方のお話は、弟さん達から聞いておりますよ。盲導犬の育成に力を入れていらっしゃるとか?』
『はい。少し興味があるので、後でお話を伺っても構いませんでしょうか?』
『解りました。』
ルドルフとマリウスが話しているのを見た環は、エリザベスが着ているドレスに見惚れていた。
『エリザベスさん、そのドレス素敵ね。ブリジット様が仕立ててくださったのでしょう?』
『ええ。』
エリザベスが着ているドレスは、ヴェネツィアンレースが使われ、美しい刺繍が細部にわたり施されていた。
『このドレスを、いつかわたしに娘が出来たら着て貰おうと思っているの。』
『いいわね、世代を越えて受け継がれるドレス・・何て素敵なのかしら。』
『ねぇタマキ様、皇太子様とは上手くいっていらっしゃるの?』
『ええ。』
『わたし達、貴方達のようにお互いを支え合って生きてゆくわ。』
『そんな・・』
『二人とも、仲が良いのはいいことだが、いつまで教会に居るつもりだ?』
話に夢中になっていた環とエリザベスが我に返ると、教会の入り口で呆れたような顔を浮かべているルドルフが自分達を見ていることに気づいた。
『申し訳ありません、話に夢中になってしまって・・』
『謝るな。それよりもタマキ、今夜予定は空いているか?』
『はい・・』
その日の夜、エリザベスとエルンストの披露宴に出席した環とルドルフは、環の屋敷で愛し合った。
『16歳の誕生日、おめでとう。』
『有難うございます、ルドルフ様。』
『やはり、アメジストのネックレスはお前の黒髪に映えて似合うな。』
ルドルフはベルベッドの箱からアメジストのネックレスを取り出すと、それを環の首に掛けた。
『このような高価な物、頂けません。』
『わたしは、お前に美しい物を持って貰いたいんだ。』
ルドルフはそう言うと、環の唇を塞いだ。
『ルドルフ様、今夜は王宮にお戻りにならなくても宜しいのですか?』
『ああ。』
翌朝、屋敷に憤怒の表情を浮かべたヨハン大公がやって来た。
『ルドルフ、お前昨夜王宮に戻らないと思ったら、こんな所に居たのか!?』
『どうした、大公?』
『どうしたもこうしたもねぇよ、恋人と過ごしたいからって閣議や視察を全てキャンセルするなんて聞いていないぞ!』
『ルドルフ様、それは本当なのですか?』
ヨハンとルドルフの会話を聞いていた環は、蒼褪めた顔をしてルドルフを見た。
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