シャワーを浴びた歳三がドライヤーで髪を乾かしていると、部屋のドアチャイムが鳴った。
「ルームサービスです。」
「こちらです、どうぞ。」
歳三が浴室から出ると、部屋に食事を載せたワゴンをひいたホテルの客室係が入ってくるところだった。
「総司、勝手にルームサービスを頼んだのか?」
「だって、お腹が空いて仕方がないんですもん。」
「お前ぇ、さっきパンを食ったばかりだろうが?」
歳三が呆れた顔でそう言って総司の方を見ると、彼は既にルームサービスの支払いを済ませ、オムライスを食べていた。
「最近、何だか食欲が湧き過ぎるんですよねぇ。」
「何かの病じゃねぇのか?一度医者に診て貰ったらどうだ?」
「そうですね。」
総司はそう言うと、またオムライスを一口頬張った。
一時間後、総司は京都市内の病院で内科を受診したのだが、内科医からの言葉に彼は衝撃を受けた。
「どうやら妊娠なさっておられるようですね。産婦人科を受診してください。」
「え・・?」
かつて自分の身に起きた事件の所為で、自分が妊娠できない事を歳三から聞かされていた総司は、また自分が妊娠している事が信じられなかった。
「有難うございました・・」
総司が内科から産婦人科の待合室へと移動すると、そこにはお腹が大きい妊婦や幼児連れの女性が沢山居て、一人で診察の順番を待っている総司は、何だか居た堪れなくなった。
「沖田さん、沖田総司さん。」
「はい。」
診察室に入ると、薄紅色の診察台がカーテンの向こうに置かれていた。
「下は全部脱いでくださいね。」
「は、はい・・」
一度は経験した事なのに、何故かこの診察台に乗るときは身体が緊張で強張ってしまう。
暫くすると、女性医師の声がカーテンの向こうから聞こえて来た。
「沖田総司さん、ですね?」
「はい・・内科に妊娠していると言われたので、来たのですが・・」
「おめでとうございます、現在7週目に入っていますよ。」
「先生、わたし一度妊娠したことがあるのですが、不慮の事故に遭って、もう二度と妊娠できない身体になったと、以前病院で言われたことがあるんです。」
「沖田さん、今回の妊娠は奇跡ですよ。次回の健診には、ご主人と一緒に来てくださいね。」
「はい・・」
病院の外で煙草を吸いながら総司を待っていた歳三は、晴れやかな笑顔を浮かべながら総司が病院から出て来るのを見て彼の元へと駆け寄った。
「どうした、総司?」
「土方さん、さっき産婦人科で診て貰ったら、またわたし身籠っているそうです。」
「それは、本当か?」
「はい。変に食欲が湧いているのも妊娠の兆候だって、先生がおっしゃっていました。土方さん、どうして泣いているんですか?」
「いや・・またお前が俺の子を身籠った事が嬉しくてな・・」
歳三はそう言うと、乱暴に手の甲で頬を伝う涙を拭った。
「総司、元気な子を産めよ。」
「はい。土方さん、今日から煙草を吸うのは止めてください。」
「わかっているよ。」
歳三は煙草の箱を近くのゴミ箱へと放り投げた。
「お前ぇに似た娘だったらいいなぁ。」
「嫌だなぁ、土方さんに似た息子が生まれますよ、きっと。」
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