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コチラからお借りいたしました。
「火宵の月」「薄桜鬼」の二次創作小説です。
作者様・出版社様・制作会社様とは一切関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
その“悪い噂”というのは、主に火月の長兄・静馬の事だった。
何でも彼は最近吉原へ通い詰めては一人の遊女に入れあげているという。
侍が女遊びに興じるなど、取るに足らないと有匡は思っていたのだが、静馬はその遊女を身請けするつもりでいるという。
「いくら旗本の倅だって言ってもさ、吉原の花魁を一人身請けするのに幾ら金が掛かると思ってんだろうね?花魁は仕事だからあいつに愛想よくしてるっていうのに、それが解らないなんてあいつは初心すぎるね。」
艶夜はそう言って茶を啜りながら溜息を吐いた。
有匡は静馬と何度か会ったことがあったが、礼儀正しく謹厳実直な青年だった。
そして、余りにも世間を知らな過ぎた。
道場と私塾と自宅を往復する日々を送り、吉原で初めて恋を知った静馬は、遊女の戯言に惑わされてしまったのだろう。
「その点遊び慣れている有匡は良いよね、花魁の戯言なんか鼻で笑って本気にしないから。」
「人を遊び人のように言わないでくれないか?」
有匡が心外だと言うように妹を睨みつけると、彼女はクスリと笑った。
「もし静馬が本気で遊女を身請けするつもりだったら、あんたと火月の縁談が白紙に戻るかもしれないね。身分違いの結婚なんて、お上が許す筈ないし・・」
「わたしが一度、静馬殿を説得してみよう。」
茶店の前で艶夜と別れた後、有匡はその足で高原家へと向かった。
「有匡様、お珍しい事、貴方様がこちらにいらっしゃるなんて。」
自分の姿を見て弾んだ声を上げ、潤んだ瞳で自分を見つめる火月の姉・美祢(みね)に、有匡は静馬の居場所を尋ねた。
「美祢殿、静馬殿はどちらにおられる?」
「申し訳ありませんが、兄が今何処に居るのかわたくしにはわかりません。」
「そうですか。」
「有匡様、暫くお待ち下さいませ。」
美祢はそう言って屋敷の奥へと消え、暫くして有匡が居る門へと戻って来た。
「兄の部屋で数日前、このような文を見つけました。」
「かたじけない、拝見いたします。」
美祢から文を受け取った有匡は、その内容を見て愕然とした。
文には、遊女と駆け落ちし、家を捨てる事、そして家族へ迷惑を掛けてしまう旨が書かれていた。
「まさか、兄がそんな・・」
「美祢殿、静馬殿が早まった行動を取る前に彼を見つけなければなりません。」
「父上を呼んで参ります!」
慌てた様子で姉が屋敷の奥へと再び消えるのを見た火月は、兄の身に何か良くない事が起こったのだと勘で解った。
「有匡様、兄上がどうかされたのですか?」
「火月、事が済むまでここで待っていてくれぬか。」
「はい・・」
その後、有匡は高原家の使用人達と共に静馬の捜索をし、彼が吉原で件の遊女と会っている事を知り、遊女が居る廓へと向かった。
「静馬殿、はやまってはなりません。」
「有匡殿、わたし達の事を止めないでください。わたしは・・」
「貴方は初めての恋にのぼせ上がっているだけだ、落ち着かれよ。」
有匡の説得により、静馬は遊女と駆け落ちすることを諦めた。
「わたしは愚かでした・・遊女の戯言に舞い上がってしまって・・」
「誰にでも過ちはあります。重要なのは、過ちを繰り返さぬことです。」
「有匡殿、あの時貴殿がわたしを止めてくれなかったら取り返しのつかぬ事をしていたかもしれません。」
静馬はそう言うと項垂れた。
「有匡殿、どうか妹の事を宜しくお願い致します。」
「家へ戻りましょう、静馬殿。そしてもう二度と吉原へ足を踏み入れてはいけません。」
吉原から高原家へと戻った静馬を、美祢と火月は安堵の表情を浮かべ、涙を流しながら迎えた。
「父上、只今戻りました。」
「有匡、話がある。わたしの部屋へ来い。」
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