土方さんが両性具有です、苦手な方はお読みにならないでください。
「ご主人様、只今戻りました。」
「首尾は?」
「鬼の片割れを見つけました。」
男はそう言うと、主に何かを囁いた。
「そうか。では、そやつについて探れ。」
「はい・・」
「全く、あやつは只者ではないと思っていたが、やはりな・・」
「あの者達は、どうしますか?」
「それは放っておけ。暫く泳がせた方がいい。」
「わかりました、そのように致します。」
「なぁ、お前が以前話した噂は本当か?“青い瞳をした聖母が居る”という・・」
「あんなものは、ただの噂ですよ。」
「そうであろう。お主はもう下がれ。」
「わかりました。」
部屋の前から男の気配が消えた後、彼の主は煙管を咥えた。
「お珍しい、あなたが煙管をお吸いになられるなんて。」
「ここへはもう来るなと言った筈だ。」
「まぁ、つれない事をおっしゃらないで下さいな、遊馬様。」
部屋に入って来た女はそう言うと、忍の主・遊馬に少ししなだれかかった。
「お前は、あやつらが“先生”と慕っていた男の事を憶えておるか?」
「えぇ。その男と、彼らと一体どういう関係なのです?」
「それを今、部下に探らせている。」
「楽しみですわね、その鬼達に会える日が。」
「あぁ、そうだな・・」
遊馬はそう言うと、煙を吐き出した。
(俺の左目を抉った借りは、必ず返してやるぜ。)
「ねぇ土方さん、あの二人どうするつもりなんですか?」
「それは明日決める。」
「まぁ、その口ぶりからすると、悪いようにはしないんでしょうけど。」
総司はそう言って横目でお優を見ると、副長室から出て行った。
「今日はもう遅いから、お前はここで休め。」
「へぇ。」
「きっと俺が、必ず“先生”を殺した奴を見つけ出してやるから、安心しろ。」
「うちはずっと、あなた様を誤解しておりました・・血も涙もない鬼やと・・でも、それはうちの勝手な勘違いやったようどす。」
「誰にだって、間違いを犯す事がある。大切なのは、それとどう向き合うかだ。」
「わかりました・・」
翌朝、お優の処遇についての詮議が局長室で行われ、お優は暫く歳三の小姓として働く事になった。
「本当なら女中として働かせてやりてぇと思ったんだが・・」
「わかっています。この姿は人目につくさかい、うちと弟は隠れるようにして生きて来ました。」
「そうか・・」
「弟は、今知り合いの町医者の所に居ます。右目の怪我は、少し良くなったそうやと・・」
「お前ぇには、弟が居るんだったな?」
「へぇ。物心ついた頃から、弟はたった一人の家族どした。弟の為やったら、うちは何でもします。」
そう言ったお優は、優しい母親のような顔をしていた。
「兄上、あいりどす。」
「来てくれたのか、あいり。」
あいりが真紀の家を訪れると、彼は丁度布団から起き上がって来た所だった。
妊娠してからというもの、真紀は体調を崩し床に臥せる事が多くなった。
「まったく、最近は剣の鍛錬が出来なくなってしまう程身体が弱くなってしまうなんて、情けない。」
「妊娠は病気と違いますけど、普通の状態と違いますさかい、辛いどすなぁ。」
「あぁ。何かを食べても吐いてばかりいて、横になる事しか出来ない。」
「お粥さんなら食べられますやろうか?」
「少しだけなら・・」
「ほな、今からお粥さん作ってきますさかい、兄上は寝といて下さい。」
「わかった・・」
蒼褪めた真紀が再び布団の中に入るのを見たあいりが彼の部屋から出て厨で粥を作っていると、外から何か物音が聞こえて来た。
(何やろか?)
あいりは懐から隠し持っていた苦無を握り締めながら物音が聞こえて来た庭の方へと出ると、そこには見知らぬ男が立っていた。
頭に編笠を被っていて顔は良く見えないが、男は全身から殺気を漂わせていた。
「あんた、何者や!」
「今から死ぬ奴に、名乗る名などない!」
男はそう叫ぶと、刀の鯉口を切った。
あいりは男に向かって苦無を投げたが、それは男によって刀で弾き飛ばされてしまった。
帯の中に隠し持っていた懐剣を取り出そうとしたが、男の動きの方が速かった。
「諦めろ。」
「あんたが何者なんかは知らんけれど、兄上はうちが守る!」
「笑止。」
男はそう言って口端を歪めて笑うと、あいりの首を両手で万力のように締め上げた。
(兄・・上・・)
このまま、やられる訳にはいかない。
だが、身体が動かない。
あいりが必死に男に抵抗していた時、銃声と共に男の悲鳴が上がった。
「次はお前の頭に風穴を開けてやる。」
「クソ!」
男は真紀に撃たれた右肩を押さえると、そのまま消えていった。
「あいり、大丈夫か?」
「はい。」
「坂本さんから護身用に渡された拳銃が役に立ったな。」
真紀はそう言った後、持っていた拳銃を下ろした。
「本当はあの男を袈裟斬りにしたかったが、距離があり過ぎたし、間に合わないと思ってこれを初めて使ったが、性能は良さそうだな。」
「兄上、おおきに。」
「礼など不要。お前を襲った男がどこの誰なのかはわからぬが、あの男は二度と剣を握れぬだろうよ。」
真紀はそう言うと、自室へと戻った。
「曽我、残念だが君の右腕は二度と剣を握る事が出来ない。」
「おのれぇ、あの女、許さぬ!」
遊馬は、真紀に撃たれた右肩を押さえながら、怒りに震えていた。
「顔色が少し良くなったのぅ。」
「えぇ、坂本さんが下さったはぁぶとかいう西洋の薬草のお陰です。」
「そうか。それは良かったのぅ。そういえば、桂さんからおまん宛の文を預かって来たぜよ。」
「ありがとうございます。」
「坂本様、お久しぶりどす。」
「あいり、元気にしちょったか?」
「へぇ。」
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