※BGMと共にお楽しみください。
『あなたが、伝説のサムライね?』
『初めまして、トシゾウ=ヒジカタと申します。』
『良い男ねぇ。』
歳三が自分を招待してくれたバリルー伯爵夫人に挨拶すると、彼女はそう言って笑った。
『ブリュネ、何だか俺注目されてねぇか?』
『あなたは社交界の注目の的ですからね。これから色々と忙しくなりますよ。』
『そ、そうか・・』
歳三はブリュネと共に貴族達に挨拶回りをしていると、楽団がワルツを奏で始めた。
『トシゾウ様、わたくしと踊ってくださいな。』
『抜け駆けは狡いわ!わたくしと・・』
突然歳三の目の前に、色とりどりのドレスや宝石で着飾った令嬢達が群がって来た。
『お嬢さん方、そんなに慌てなくても、わたしは居なくなりませんよ。』
『まぁ、トシゾウ様ったら・・』
令嬢達からの誘いを上手く断った歳三は、人気のないバルコニーへと向かった。
空に浮かぶ月を眺めながら、歳三は昔、京で総司と共に見た月の事を思い出していた。
“綺麗な月ですね。”
“あぁ、そうだな・・月に照らされたお前の横顔も綺麗だ。”
“土方さんったら・・”
そう言って照れ臭そうに笑う総司の姿を、歳三は今でも忘れる事が出来ない。
(総司、お前にもう一度会いたい・・会ってお前ぇを抱き締めてぇ・・)
感傷に浸りながら歳三が月を眺めていると、突然彼は誰かの両手で目を塞がれた。
(誰だ?)
歳三が振り向くと、そこには誰も居なかった。
(気の所為か・・)
バリルー伯爵邸を後にした歳三が帰宅すると、玄関前に小包が置かれている事に気づいた。
(何だ?)
『あら、今帰って来たんだね。それ、あんた宛の小包だよ。』
『そうですか、ありがとうございます。』
下宿屋の女将に礼を言うと、歳三は部屋に入って小包を解いた。
すると、その中には有名宝飾店の箱に入った、エメラルドのネックレスがあった。
―土方さん。
そのエメラルドは、総司の魂が宿っているように歳三は感じた。
―わたしの魂は、いつも貴方の傍に居ますよ・・
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