「薄桜鬼」の二次創作小説です。
制作会社様とは関係ありません。
二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。
土方さんが「夜にだけ女になる」という特殊設定です。苦手な方はご注意ください。
美しい夏が来た。
「ふぅ・・」
「全く、こう忙しいと過労死しちまいますよ。」
「そう言うな。社交期あっての俺達だろう?」
「まぁ、そうですよね・・」
社交期を迎え、ユリシス達の工房は猫の手も借りたい程、忙しくなった。
そんな中、ユリシスの工房に一人の客が来た。
「娘の為に新しい靴を作って欲しいんだ。」
「娘さんはおいくつですか?」
「実は、まだ生まれていないんだ。」
「おや、それは・・」
「妻とわたしが、産まれてくる子に初めての靴をプレゼントしたいんだ。」
「わかりました。」
ユリシスはそう言うと、客と共に彼の妻が居る家へと向かった。
「ただいま!」
「お帰りなさい、あなた。」
家の奥から、産み月を迎えた客の妻がやって来た。
「ソフィー、この方がわたし達の赤ちゃんの靴を作って下さる方だよ。」
「まぁ、嬉しい。」
「奥様、どうかおかけになってくださいませ。」
ユリシスはそう言うと、客の妻・ソフィーをソファに座らせた。
「申し訳ありません、客人にお茶ひとつもお出ししないなんて・・」
「いいえ。わしも年を取ってしまいましたので、今から身体を鍛えておこうと思ってのう。」
「まぁ・・」
ユリシスの言葉に笑ったソフィーの顔が、痛みで大きく歪んだ。
「産まれそう・・」
「な、なんだって~!」
「落ち着きなされ。近所の産婆を呼んできなさい。」
「は、はい!」
「そこの娘さん方は、清潔なシーツと温かい湯を用意するのじゃ。」
「わかりました!」
ユリシスの適切な指示の下、ソフィーは元気な男児を出産した。
「ありがとうございます!」
「子供の足は大きくなるから、一歳の誕生日が来たら毎日こちらへはかりに伺いましょう。」
「ありがとうございます、ユリシスさん。」
「そなたらの子は、健やかに育つだろう。」
ユリシスがソフィー達に祝福の言葉を贈っていた頃、歳三は神学校でストラを作っていた。
ストラとは、司教、司祭、助祭が礼拝の際に使用する、首から掛ける帯の事で、形状や文様は宗派ごとに異なる。
歳三はストラの白い布地に、金糸で白百合の紋章を刺繍していた。
「珍しいですね、君が王家の紋章を刺繍しているとは。何故、それを刺繍されているのですか?」
「いえ、ただなんとなく・・」
「そうですか。それよりも、君は毎晩遊び歩いているようだと噂に聞きましたが・・」
「そんなものは、デマですよ。修練長様も、所詮人の子なのですね。」
「まぁ・・」
「では、俺はこれで失礼致します。」
歳三は時折自分に嫌味を言って来るアントニオを、最近適当にあしらえるようになった。
「歳三様!」
「おうグスタフ、朝から頼みごとをして済まなかったな。」
「いいえ。」
グスタフは人気がない歳三の自室で、ユリウスの事件の詳細を彼に報告した。
「どうやらユリウス様の事件は、ある人物が関わっているようなのです。」
「ある人物?」
「えぇ・・」
グスタフは、歳三の耳元でその人物の名を囁いた。
「それは、確かなのか?」
「はい。」
「色々と、調べる事があるな。」
「ええ。それよりも、ヨハネス様がお呼びですよ。」
「わかった。」
歳三がヨハネスの書斎へと向かうと、ガブリエルと廊下で擦れ違った。
彼は、何処か暗い表情を浮かべていた。
(何だ?)
「ヨハネス様、歳三です。」
「歳三か、入れ。」
「失礼致します。」
歳三がヨハネスの書斎に入ると、彼は歳三に一枚の書類を見せた。
「これは?」
「お前の配属先が決まったぞ。お前は来月から、宮廷付司祭として働く事になったぞ!」
「それは・・」
「もう決まった事なのですか?」
「あぁ。」
「ありがとうございます。」
「お前なら、向こうでもやっていけるだろう。」
(あの魔物がはびこる王宮でも、な・・)
「よろしかったのですか?」
「何がだ?」
「あの者を、王宮へ配属させるなど・・正気の沙汰ではありませんよ。」
ガブリエルはそう言うと、ヨハネスを見た。
「王妃様たっての願いなのだ。」
「あそこは、生き馬の目を抜くような、欲に塗れた所ですよ。そのような所に・・」
「あの者ならば、大丈夫だろう。」
「随分と無責任な事をおっしゃるのですね。」
「わたしは彼の親でも何でもない、無責任で結構。」
「あなた様という方は・・」
「ガブリエルよ、わたしの守護天使・・いつまでもわたしの傍に居ておくれ。」
「えぇ、わかっておりますよ・・父上。」
一月後、歳三は長く暮らしていた神学校を離れ、王宮に隣接している修道院に移り住んだ。
「あなたが、土方さんですね?はじめまして、わたしはロキ、ここではあなたと同じ司祭となりますね。」
修道院で、そう歳三に話し掛けて来たのは、薄紅色の髪をした若い司祭だった。
「ど、どうも・・」
「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいのですよ。」
(何か、変な人に絡まれたなぁ・・)
「トシ、さっそくだが君に聖体拝領式に参列して貰う。」
「はい・・」
「王族の方々も参列するから、失礼のないようにな。」
宮廷付司祭として、歳三は聖体拝領式に参列した。
「きゃ~」
「あの司祭様、すてき~!」
歳三が他の司祭達と共に聖堂の中へと入ると、参列していた女性達の間から黄色い悲鳴が上がった。
(何だ?)
歳三が彼女達に微笑むと、彼女達は悲鳴を上げながら次々と倒れていった。
「トシ、少しいいかな?」
「はい・・」
「君は神に仕える身だ。故に、異性を惑わせてはなりませんよ。」
「はい・・」
「わかればよろしい。」
主任司教・ヨーゼフは、四角四面な男だった。
ヨハネスとは全く違った性格で、“厄介な奴に絡まれたな”と歳三は思ってしまった。
その日の夜、歳三はこっそりと修道院のベッドを抜け出して、王宮へと向かった。
(確か、宝物庫は・・)
「おい貴様、こんな所で何をしている!?」
「申し訳ありません・・わたくし、こちらで働き始めたばかりなので、宝物庫への道がわからなくて・・」
「そうか、俺が案内してやろう。」
そう言った兵士は、歳三の尻をさり気なく触ろうとしたが、その前に一本の矢が兵士の顔の近くにあった木に刺さった。
「あらぁ、ごめんなさい。新しい弓の試し撃ちをしようとしたら、手元が狂ってしまったみたい。」
夜風に美しいハニーブロンドの髪をなびかせながら歳三達の前に現れたのは、男装の王女・フェリシティだった。
「ひ、ひぃぃ~!」
「あなた、こちらにいらっしゃい。」
「は、はい・・」
フェリシティと共に歳三が向かったのは、リリアの部屋だった。
「リリア、あなたの女神様を連れて来たわよ。」
「わぁ~い!」
(こいつ、あの時俺を追い回していたガキ・・)
「あなた、お名前は?」
「ヴァイオレット、と申します・・」
ひょんなことから歳三は、“夜限定”のメイドとして王宮で働く事になった。
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