「何故あなたのような方が、このような所にいる?」
琥珀色の双眸を細めながら、イルディアはそう言って皇女ユリノを見た。
「わたくしはここで一息ついた後、リシャムに向って発つ予定でした。」
シンはそう言ってイルディアと、半ば廃墟と化した宿場町を見た。
「これは一体、どういうことなのですか?」
「それはあなたにお話しするような話ではありません。」
イルディアは素っ気ない口調で言うと、部下達の方へと戻っていった。
その後、シン達はイルディア率いるアルディン帝国軍に警護され、リシャム入りした。
―あれが、皇女ユリノ・・
―カヤノ様にそっくりだ。
―でも彼女は・・
輿入れ行列を眺めている民達がそう囁いているのを、シンは輿に張られた薄衣越しに見ていた。
「皇女様、間もなく宮殿に着きますわ。」
カオルの声で、シンはそっと輿から顔を出した。
するとそこには、大小の尖塔が聳え立っている白亜の幻想的かつ美しい城が前方に見えた。
ランの厳めしい印象を持った城とは違い、アルディン帝国の城はどこか人を安心させる優美なものだった。
「皇女殿下、婚礼のお支度を。」
城に入りアルディンの女官達に用意された部屋に通され、寛いでいるシンに向って、女官長が硬い表情を崩さずにそう言って彼を見た。
「今からですか?」
「はい。シェーラ皇帝陛下はとても御多忙なお方です。早くアレク様の腫れ姿がご覧になりたいと。」
「わ、わかりました。」
婚礼の準備を慌ただしく済ませ、純白の花嫁衣装を纏い、シンは女官達とともに婚礼が執り行われる礼拝堂へと向かった。
そこには、凛々しい軍服姿のアレクが祭壇に立ってシンに微笑んでおり、その両端にはアルディン帝国皇帝・シェーラが、孫の妻となる女をじっと見つめ、その息子・リシムが険しい表情を浮かべながら立っていた。
シンとアレクはマサリア神の下で愛の誓いを交わした。
2人は周囲に祝福されながら、新婚初夜を迎えた。
(俺は、こいつを殺さないといけない。)
シンは控えの間で身支度を整えながら、これからアレクを殺すことに少し躊躇った。
まだ彼を殺すのは早い。
まずはアレクを完全に信用させる為の時間を稼がなくては。
シンは深呼吸して寝室へと入り、夜着を脱ぎ捨ててアレクの前に立った。
「わたくしはこんな身体ですが、受け入れてくださいますか?」
シンの言葉に、アレクは優しく頷いた。
朝日の光が2人を包むまで、2人は愛し合った。
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