「話とは何だね、ミシェル?」
ロレンツォはそう言って、椅子に腰掛けた。
「僕、神学校に行きたいんです。」
ミシェルの言葉を聞き、彼に微笑んだ。
「そうですか・・あなたをここで育てて10年ですか。巣立ちのときが来るなんてあの時は思ってもみませんでした。」
そう言ったロレンツォの目には、涙が溜まっていた。
「休みになったら帰ってきます。手紙も毎日書きますから、心配なさらないでください。」
ミシェルはそう言ってロレンツォを抱きしめた。
その日の夜、ロレンツォによってミシェルの送別会が行われた。
「ミシェル兄ちゃん、神学校に行っても私たちのこと忘れないでね。」
孤児院の中でミシェルによくなついているルイーゼがそう言って泣いた。
「絶対に忘れないよ。」
ミシェルは部屋に戻り、荷造りをした。
ここへ来てから、10年。
両親を失い、孤児となった彼に手を差し伸べてくれたのは、ロレンツォだった。
ここでの生活は、まるで天国のようだった。
ルイーゼやジョゼフ、カトリーヌ-みんな、本当の家族のようだった。
これから孤児院を出て、全寮制の神学校に進学する。
みんなと離れて、初めて1人で生活する-これから始まる新生活に、ミシェルは不安と期待で胸がいっぱいだった。
翌朝、ミシェルはみんなに見送られて孤児院を発った。
それからミシェルは3日もかけてようやく神学校に着いた。
白亜の荘厳な建物が、これから自分の家となると思うと、ミシェルは緊張した。
ゆっくりと門を開け、中へと入ると、そこには数人の少年達が談笑していた。
「あの、聖堂はどこですか?」
少年の1人が指差した方向に向かうと、キリストの生誕と復活が描かれた薔薇窓が美しい聖堂が見えた。
ミシェルが扉を押して中へ入ると、そこには肩まで伸ばした艶やかな黒髪をした青年が静かに祈りを捧げていた。
ミシェルはその青年の横顔に見覚えがあった。
あの日、孤児院の中庭で会った。
「ユリウス・・」
ミシェルの声に、ユリウスはゆっくりと振り向いた。
「ミシェル・・ミシェルなのか?」
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Last updated
2012.03.10 13:02:57
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