「皇太子様は、わたくしのことがお嫌いなの?」
ショックで唇を震わせながら、麗華はそう言って聖良を見た。
「そういう事で言ったわけではありません。あなたとは関わりたくないと思ったから申したまでです。」
「それはわたくしのことが嫌いだと、はっきりおっしゃっているようではありませんか。わたくしは皇太子様の事を諦めませんわ、絶対に!」
麗華はキッと聖良を睨みながらそう叫ぶと、大学寮の中へと入って行った。
彼女を追いかけようと思ったが、疲れていたので聖良は携帯でタクシーを呼んでミルトネス伯爵邸へと戻った。
「パーティは如何でしたか?」
ダイニングに入ると、そう言ってシャーロックが聖良に微笑んだ。
「パーティーといっても、顔を出す位でしたから、そんなには・・それに、招待して下さった方の事は余り好きではないので・・」
「レディ・レイカはあなたの事を大層ご執心だと聞いておりましたが、あなたにはその気がないのですね?」
「ええ、寧ろ彼女のような女性は苦手です。押しが強すぎるというか・・自己中心的というか・・」
聖良が溜息を吐きながらスコーンを摘んでいると、メイドが慌ててダイニングに入って来た。
「シャーロック様、女性の方が皇太子様とシャーロック様にお会いしたいとおっしゃっておられるのですが・・」
「その方はどんな方だ?」
「ロンドンから来たとおっしゃって、赤いドレスをお召しになっておりました。」
「・・そうか、ではお通ししなさい。5分だけ話すと伝えておいてくれ。」
「かしこまりました。」
数分後、麗華がダイニングに足音荒く入って来た。
「皇太子様、さっきのパーティーでの事、やはり納得がゆきません。わたくしの何処に落ち度があるというのです?一体何をお考えなのですか?」
「それはさきほど申した通りです。あなたには興味がないと、はっきり申した筈ですが?」
「それはわたくしに婚約者がいるからということですの?ならばあの方との婚約は白紙に戻しますわ。はじめからあの方とのご縁談は、閨閥作りの為の結婚でしかなかったのですもの。警察官僚の妻よりも、わたくしはローゼンシュルツ王国皇太子妃の方が良いですわ。」
そう言った麗華の瞳には、激しい欲望が宿っていた。
いずれは一国の王妃となるという欲望が。
「あなたはわたしよりも、ローゼンシュルツ王国皇太子妃という身分が欲しいのですね?」
「わたくしの望みは、ロイヤルファミリーの一員になることです。それ以外の望みはありませんわ。」
麗華の言葉を隣で聞いていたシャーロックは、苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。
「もう5分経ちましたので、お帰り下さい。今のお言葉を聞いただけで、あなたのわたしに対するお気持ちがわかりました。」
「ですが、まだお話しは終わっては・・」
「どうぞ、お帰り下さい。」
慇懃無礼にそう言い放つと、聖良はダイニングから出て行った。
「シャーロック様、皇太子様にわたくしとの事を考え直していただくようにおっしゃってくださらないこと?」
「申し訳ございませんがレディ・レイカ、わたしはあなたのプライベートに於いては何の役も立ちません。」
シャーロックは冷たい口調で言うと、傍に控えていたメイドに声をかけた。
「お客様のお帰りだ。慎重に玄関まで送るように。」
「かしこまりました。」
麗華は憤怒の表情を浮かべながらシャーロックを睨みつけた後、ダイニングから出て行った。
「・・全く、あんな女性がいるなんて信じられないや・・」
シャーロックは溜息を吐いてそう呟くと、紅茶を一口飲んだ。
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