歳三たちは日本で暮らすことになり、彼らはそれまで清子と韓屋で暮らしていたが、日本での新居は所謂団地と呼ばれるところだった。
引越しの準備で慌しく、一段落した後に歳三と千尋は近所へと挨拶回りに行った。
「初めまして、本日こちらに引っ越してきた土方です。これから何かとご迷惑お掛けしますが、宜しくお願いします。」
「ええ、こちらこそ宜しくね。」
階下の住人達の元へと挨拶回りすると、大抵の住民達は歳三達を歓迎してくれた。
だがー
「ここが最後やね。」
「ああ。」
千尋と歳三は『西田』と表札がかかったドアをノックした。
「はぁ~い。」
間延びした声が奥から聞こえたかと思うと、ドアが開いて玄関先に一人の主婦が現れた。
「初めまして、今日こちらに引っ越してきた土方ですけれど・・」
「ああ、土方さん?どうも宜しくね。」
主婦はそう言うと、歳三たちの鼻先でドアを閉めた。
「うち、何か悪いことしたんやろか?」
「気にすんなって。」
歳三は千尋をそう励ますと、部屋へと戻った。
「来週にはこれを提出しなくちゃならねぇのか・・ああ、頭が痛くなるぜ。」
「本当やねぇ。」
双子の娘達の小学校入学関連の書類に目を通し、歳三たちは溜息を吐きながらそれらに記入した。
「ランドセルはいつ届くって?」
「明後日届くってメールが入っとったよ。それよりも二人とも、これから大丈夫やろうか?」
「まぁ、それは入学してからでねぇとわからねぇよ。これからお互い色々と忙しくなるな。」
「うん・・」
数日後、千尋が注文したランドセルが届き、真新しいランドセルを背負って嬉しそうにはしゃぐ美輝子と薫の写真を、歳三は納めた。
『入学式に遅れるぞ。』
『うん、わかった!』
入学式の朝、真新しいランドセルと可愛いワンピースを着た娘達の手をひきながら、歳三と千尋は小学校の門をくぐった。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。どうぞ実りある六年間を過ごしてくださいね。」
入学式が終わり、美輝子と薫はそれぞれの教室に移動した。
『クラスが違うなんて、残念だね。』
『大丈夫、遊びに行くから。』
美輝子はそう言って妹を励ますと、教室へと入っていった。
自分の席を見つけて彼女は腰を下ろして教室中を見渡すと、幼稚園の頃から知り合いらしき数人の児童達が楽しく談笑していた。
それもその筈、美輝子以外この教室に居る児童達は家が隣近所で家族ぐるみの付き合いをしているところが多かったのだから。
誰も自分に話しかけてこないので、美輝子は先ほど配られた教科書を開いた。
もちろんそれは全て日本語で書かれており、今までハングルの教材を使っていた美輝子にとって何が書いてあるのかさっぱりだった。
これからどうしようかー美輝子は溜息を吐きながら、国語の教科書を閉じた。
薫もまた、不安を抱えながら溜息を吐き、窓の外を眺めていた。
娘達が寝静まるのを待って、歳三達は彼らの持ち物にそれぞれ名前を書いた。
「あの子達、大丈夫やろうか?入学式が終わってから様子が変だし・・」
「いじめってのは表面化しねぇし、今はネットがあるから陰湿極まりねぇ。千尋、ママ会はいつだ?」
「明後日の四時に学校だって。服はどうしようかな?」
「そういう細かいところに女は拘るからなぁ。面倒くせぇったらねぇな。」
「まぁそういうところを大事にしないと、これからここでやっていけんわ。じゃぁおやすみ。」
「ああ、おやすみ。」
千尋は夫より一足先に寝室で休んだ。
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