※BGMとともにお楽しみください。
1864(元治元)年6月5日。
「遅ぇな・・」
長州の目的を会津藩に報告した歳三達だったが、新選組は会津藩側から待機を命じられた。
「この非常事態にじっと待ってろっていうのか?」
「仕方ないだろう、歳。俺らは会津藩お預かりの身なんだ。勝手に動くわけには・・」
「甘ぇよ近藤さん!ここで指を咥えて待っている間にも、京が燃えるかもしれねぇんだぞ!出陣するなら今だろうが!」
会津藩の指示に従おうとする勇に対し、歳三はカッと目を見開きながらそう怒鳴った。
「そうか・・では、出陣するか!」
「それでこそ新選組の大将だ!」
こうして、新選組は独断で長州の目的を阻止するため、彼らの会合場所に討ち入りする事を決めたのである。
「二手に分かれるぞ。歳は四条河原沿いの四国屋、俺達は三条小橋の池田屋を調べろ。」
「わかった。」
「武運を祈るぞ、歳!」
「あんたもな!」
黒谷の前で別れた勇と歳三は、それぞれ会合場所と思しき旅籠へと向かった。
「御用改めである、神妙にいたせ!」
歳三が四国屋へと踏み込むと、そこに長州藩士らの姿はなかった。
「ちっ、外れか・・」
「伝令、伝令!」
四国屋を後にした歳三達の前に、伝令役の隊士が現れた。
「本命は、三条小橋、池田屋!」
(畜生、今から行っても間に合うかどうか・・)
歳三は歯噛みしながら、部下を率いて池田屋へと駆けていった。
「御用改めである、神妙に致せ!」
「お客様、早う逃げとくれやす!」
池田屋の主は二階の浪士達に向かってそう叫んだが、階段を上がる途中で沖田総司によって気絶させられた。
「こん幕府の犬が!」
「どこまで俺らの邪魔をする気か!?」
いきり立った数人の浪士達が総司に斬りかかったが、彼の鋭い突きを喰らい階段から転げ落ちていった。
「手向かい致せば容赦なく斬り捨てる!」
勇がそう叫んだ瞬間、全ての灯りが消えた。
「曲者!」
「そこを退けっ!」
一方、池田屋の裏口へと入った真紀とあいりは、そこを守っていた奥沢栄助に咎められ、真紀は彼の槍をかわして彼を一撃で斬り伏せた。
「あいり、済まぬがお前を守ってはやれぬ。」
「承知してます。」
「行くぞ!」
二人が池田屋へと踏み込むと、辺りは血の臭いで充満していた。
(宮部さんは何処に・・)
あいりが二階へと駆けあがると、奥の部屋から人の声が聞こえた。
「あ、君この前の・・」
背後から声を掛けられて彼女が振り向くと、そこには返り血を浴びた総司が立っていた。
「二度目は逃がさないって、言ったよね?ここで死んでくれるかな?」
「嫌どす!」
「ふぅん、女の癖に逆らうの?」
総司は口端を歪めると、あいりに刀を向けた。
あいりは素早く鯉口を切ると、正眼に構えた。
暫く二人は睨み合った後、同時に互いに向けて突進した。
「ふぅん、なかなかやるじゃない。でもいつまで続くかな?」
「黙りよし!」
あいりはそう言うと、総司の肩を切り裂いた。
「いつの間に剣を振るえるようになったの?まぁ、君みたいな子、すぐに斬り伏せて・・」
「余所見をするな!」
真紀は怒声を上げると、総司の前髪を切り落とした。
「ああ、君も居たんだ?今度は逃げないの?」
「抜かせ!」
総司と真紀は互いに一歩も退かずに刃を交えた。
「君もなかなかやるじゃない。でもこれで終わり・・」
総司はそう叫んだ途端、喀血した。
「お前・・」
総司が真紀を見ると、彼は何処か自分を憐れむような顔で見ていた。
「憐れみは要らないよ!」
総司が鋭い突きを真紀に喰らわそうとしたその時、外が騒がしくなった。
「退くぞ。応援が来たようだ。」
「へぇ。」
真紀とあいりは懐紙で刀の血を拭うと、裏口から逃げていった。
「逃げるな!」
総司は二人の後を追おうとしたが、思うように身体が動かず、うつ伏せに床に倒れたまま意識を失った。
「副長、宮部は奥で腹を切っていました!」
「そうか。まだ息がある者は補縛しろ。」
「はい!」
歳三は激しい戦闘の痕跡が残る室内を見ながら、二階へと上がった。
「総司、何処に居る!?」
歳三が総司を探すと、彼は二階の廊下で倒れていた。
「誰か戸板を持ってこい!」
(しっかりしろ総司、死ぬんじゃねぇ!)
総司とは仲違いしてしまったが、彼の死を歳三が願ったことは一度もなかった。
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