「貴様、これは一体どういう事だ!?」
「どうもこうも、俺が祖母さんの跡を継ぐと言ったんだが?」
「認めないぞ、妾の子のお前が、本妻の僕を差し置いて理事長になるなど・・」
「親の金を湯水のように使うお坊ちゃんに、言われたかぁねぇな。」
歳三がそう言って匡を見ると、彼は顔を真っ赤にして俯いた。
「それでは皆さん、これから宜しくお願い致しますね。」
歳三が理事達に向かってそう挨拶し、彼らに一礼すると、彼らは席から立ち上がり盛大な拍手を歳三に送った。
「そうか、お前が跡を継ぐのか・・これで、安心して逝けるな・・」
「馬鹿言うんじゃねぇよ、親父。まだこれからだろう?」
「ああ、そうだな・・」
「トシゾウ様、会合のお時間がございます。」
「わかった。じゃぁ親父、また来るな。」
「ああ・・」
歳三が正嗣の病室から出て行くと、フィリップが病室の中へと入って来た。
「旦那様、学院の事は心配なさらないでください。トシゾウ様に・・」
「ああ、わかっているよ。あいつならば学院をよりよいものにしてくれるだろう。それよりも、母上を殺した犯人はまだ捕まらないのか?」
「ええ。わたくしは、誰が大奥様を殺したのかがわかっているのですが・・」
「そうか・・誰なのか、わたしに教えてくれないか?このままでは、死ぬにも死にきれん。」
「では、お耳をお貸しくださいませ。」
フィリップは菊恵を殺した犯人の名を、正嗣の耳元で囁いた。
「事務長、理事長就任おめでとうございます。」
「ありがとうございます、伊勢崎さん。これからも、わたしのことを助けて下さいね。」
「ええ。」
そう言って伊勢崎は歳三に笑みを浮かべたが、目は全く笑っていなかった。
「では、わたしはこれで。」
「理事長、お気を付けて!」
会合場所である居酒屋の前で伊勢崎達と別れた歳三は、その足で深江邸へと向かった。
慈愛学院で働き始めた歳三は、毎日自転車で通い慣れている道を徒歩で歩きながら物思いに耽っていた。
それが、相手に隙を作ってしまったのかもしれない。
気がつくと、歳三は数人の男達に取り囲まれていた。
「何だ、てめぇらは?」
「お前か、理事長の隠し子っていうのは?」
「誰に頼まれた?」
「それは今から死ぬ奴には言えねぇなぁ!」
男の一人がそう言って下卑た笑みを浮かべると、歳三の後頭部を金属バッドで殴った。
気絶した彼を、男達はバンの後部座席へと押し込み、素早くその場から去っていった。
「う・・」
「お目覚めですか、理事長?」
後頭部に鈍痛を感じながら、歳三が目を開けると、そこは人気のない廃工場の中だった。
「伊勢崎さん、あんたなんで・・」
「何故わたしがここに居るのかって?あなたが理事長と、あのろくでなしの長男の愛人を殺した犯人だという遺書を残して自殺する為の手助けに来たのですよ。」
「何を言ってんだ、あんた?もしかして、あんたが祖母さんを殺したのか?」
歳三の言葉を聞いた伊勢崎は、突然狂ったような声で笑った。
「ええ、わたしが殺したのですよ、理事長を。」
「どうしてだ?」
「彼女は、わたしが嘉久さんと学院の金を横領したことに気づいたのです。その口封じの為に、わたしは彼女を殺しました。」
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