「セーラ様、どういうことなのか説明して貰いましょうか?」
「リヒャルト、お前に心配を掛けて済まなかったと思っている。」
リヒャルトともにホテルの部屋へと入ったセーラは、そう言って彼を見た。
「わたしは横浜に行く事を反対してはいませんでしたが、行くなら行くでちゃんと一言わたしに断ってから行ってください。勝手に何処かへ行かれてしまっては困ります!」
「ごめん・・もうしない。」
「解れば宜しい。」
「なぁリヒャルト、さっきわたしが会ったのは・・」
「トモユキ様とそのお母様の、カズコ様でしょう?どうやらカズコ様は、あなた様の事をトモユキ様の恋人と勘違いされたようですね?」
「まぁな。その誤解はすぐにとけたよ。それよりもリヒャルト、明日急用が出来たと、SPの方々に伝えてくれないか?」
「わかりました。ではわたしは、東京に戻ります。」
「済まないな、忙しいのに。」
「何をおっしゃいますか、セーラ様。何かあったらすぐに連絡を下さいね。」
リヒャルトはそう言うと、セーラに優しく微笑み、彼女の頬にキスした。
「ではお休みなさいませ、セーラ様。」
「お休み、リヒャルト。」
ホテルのドアが閉まった瞬間、セーラは溜息を吐きながらベッドに横になった。
テレビを付けると、うるさいバラエティ番組しかやっていなかった。
うんざりしてセーラはテレビを消し、枕を抱いて寝ようとしたが、なかなか眠れなかった。
やっぱりさっき、リヒャルトを無理にでも引き留めていればよかった。
だが後悔してももう遅い。
セーラはバッグから日本へと出発する前に空港の中にある書店で買ったロマンス小説を読みながら、いつの間にか眠ってしまった。
コンコン、とドアを誰かにノックされて、セーラは眠い目を擦りながらベッドから出た。
「どちら様?」
「セーラ様、日下部です。」
「朝早くに済まない。今着替えているから少し待ってくれ。」
「わかりました。」
セーラは浴室でシャワーを浴び、髪をドライヤーで乾かした後、クローゼットに掛けてあったワンピースを取り出して素早く部屋着からそれに着替えると、クラッチバッグを持ってドアを開け、外で待っていた日下部に声を掛けた。
「待たせてしまってすまないな。」
「いえ・・」
「急に予定を変更してしまって済まないな。ちょっと寄りたいところがあって。」
「寄りたい所、ですか?」
「ああ。」
数分後、セーラと日下部は横浜市内にあるカトリック教会へと来ていた。
「ここは?」
「ここには昔、わたしが育った養護施設があってな。経営難で施設は閉鎖されてしまったが、教会と墓地はまだ残っているようだな。」
教会の門をセーラが開けて中に入るのを見た日下部は、慌てて彼女の後を追った。
「セーラ様、お久しぶりでございます。」
教会の中から一人の修道女(シスター)が現れ、彼女はそう言うとセーラに向かって頭を下げた。
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