華凛が失踪してから5年の歳月が経ち、真那美は衿替えをして舞妓から芸妓になった。
「衿替えおめでとう、真那美ちゃん。」
「おおきに。」
舞妓時代から真那美を贔屓にしてくださっている大手建設会社の吉田専務は、そう言って彼女に微笑んだ。
「叔父さんの消息は、まだ掴めないの?」
「へぇ、警察の方からはまだ連絡がありまへん。」
真那美はそう言うと、衿元から覗くピングゴールドの鎖を見た。
5年前、叔父・華凛は突然失踪し、真那美と槇の元には彼の物であったユニコーンのネックレスだけが残った。
「すまないね、辛い事を聞いて。」
「いいえ・・」
「余り気を落とさないようにね。」
「へぇ・・」
「それじゃぁ、また来るね。」
吉田専務はさっと座布団から立ち上がり、部屋から出て行った。
「ただいま戻りました。」
「お帰り、真那美ちゃん。あのな、さっきここに真鍋さんが来たんえ。」
「真鍋さんが、どすか?」
「何でも、あんたの叔父様の消息が判ったとか・・うちの部屋に通したさかい、会ってきよし。」
「そうどすか。」
お座敷から置屋へと戻った真那美は、女将に頭を下げると、真鍋が待っている女将の部屋へと入った。
「真鍋はん、お久しぶりどす。」
「真那美さん、こちらこそお久しぶりです。実は今日ここに来たのは、君の叔父である正英華凛さんが見つかりました。」
「叔父様は、今何処に?」
「それが・・」
真鍋はそう言って低く唸った後、バツの悪そうな顔をした。
「どうかなさったんどすか?」
「こんな事をあなたに告げるのは言いにくいのですが・・華凛さんの遺体が、琵琶湖畔で発見されました。白骨化していました。」
「そんな・・」
真那美は真鍋からの言葉を聞いた後、床にへたり込んだ。
叔父が―自分の親代わりだった叔父が死んだ。
「どうして、叔父の遺体やと判ったんですか?白骨死体やのに?」
「遺体の歯型と、叔父さんの歯型が一致しました。」
「そうどすか・・お忙しいのに、わざわざお越し下さっておおきに。」
「いえ・・」
真鍋はハンカチで目元を押さえる真那美の肩をそっと叩くと、部屋から出て行った。
「どないしたん、真那美ちゃん?」
「おかあさん・・叔父様が・・」
その真那美の言葉で全てをさとったのだろう。
置屋の女将は、真那美を優しく抱き締めると、今日はゆっくりと休むようにと言った。
「お休みなさい、おかあさん。」
「お休み・・」
翌朝、華凛の白骨化した遺体が琵琶湖畔で発見され、現場周辺はマスコミが殺到した。
「さきほど入った情報によりますと、正英華凛さんを殺害した犯人が逮捕されたということです。」
ニュースの画面が切り替わり、京都市内にある警察署の前に停車したパトカーから容疑者が出て来るのを、真那美と槇はテレビ画面越しに見た。
「槇さん、うちはどうすれば?」
「何も動じないこと。それが一番の対処法だよ。」
「へぇ、わかりました。」
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Last updated
2013.09.28 14:58:28
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