イラスト素材提供:White Board様
「永田さん、あなたに頼みがあります。」
「何でしょうか、千尋様?」
「この手紙を、甲府に居る主人に出していただけないでしょうか?できれば、あの三人に気付かれないように・・」
「承知しました。」
千尋から歳三宛ての手紙を受け取った永田は、それをスーツの内ポケットにしまった。
「千尋様、晩餐の用意が出来ましたので、ダイニングルームにいらしてください。」
「わかりました、すぐ参ります。」
ダイニングルームに入った千尋は、春貴の隣に座った。
「お父様、あの三人はどちらへ?」
「あの人たちは、外で食べると言って先ほど銀座へ出かけていったよ。」
「そうですか。」
「千尋、お前をこんなことに巻き込んでしまってすまないな。」
春貴はそう言うと、溜息を吐いた。
「お父様、少しお顔の色が悪いのではありませんか?」
「ああ・・最近、仕事が忙しくて休みを取る暇がなかったからな・・疲れが溜まっているのだろう。」
「一度お医者様に診て貰ったらいかがでしょう?」
「そうしよう・・」
春貴はステーキを半分残すと、部屋に戻って行った。
「旦那様は、どちらへ?」
「お父様なら、二階のお部屋でお休みになられました。」
「そうですか・・」
「永田さん、お父様は最近お仕事で忙しく、無理をされているように見えたのですけれど・・」
「旦那様は、あの三人から多大なストレスを受けているのです。その心労の所為で、旦那様の心臓に負担が・・」
「まぁ、そんなことが・・」
「あの三人がいつまでこの家に滞在するのかわかりませんが、旦那様の身に何かあったら・・」
永田がそう言って溜息を吐いた時、二階の方から大きな物音が聞こえた。
「わたくし、見てきます。」
永田とともに春貴の部屋に入った千尋は、ベッドの近くで春貴がうつ伏せになって倒れていることに気付いた。
「お父様、しっかりなさってください!」
「千尋様、どいてください!」
医学の知識がある永田は、すぐに春貴の脈を取った。
「どうですか?」
「まだ息はありますが、今すぐ病院に運ばないと旦那様のお命が・・」
数分後、千尋は永田とともに、春貴を都内の病院へと運んだ。
「あと数分遅ければ、春貴さんは死ぬところでした。」
「先生、父の容態はどうですか?」
「暫く安静にしていれば、大丈夫でしょう。余り心労を掛けさせないようにしてください。」
「有難うございます、先生。」
春貴を診察した医師に頭を下げた千尋は、彼が入院している病室に入った。
「千尋、ここは何処だ?」
「ここは病院ですよ、お父様。お医者様から、暫く安静にしているようにといわれました。」
「そうか・・済まないな、迷惑をかけて・・」
「あの三人のことは、わたくしに任せて、お父様はゆっくりと休んでくださいませ。」
千尋はそう言うと、そっと春貴の手を優しく握った。
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