イラスト素材提供:White Board様
「あら、あなた様は・・」
「少し話があるのですが、今宜しいですか?」
「ええ、構いませんわ、どうぞ。」
玲子の兄・直道と会うのは、紀洋と玲子の結婚式以来だった。
「わたくしにお話とは何でしょうか?」
「荻野の家から今回の騒動のことは聞きました。妹があなたに失礼な事をしてしまって申し訳ない。」
直道はそう言うと、千尋に向かって頭を下げた。
「頭を上げてくださいませ、直道様。」
「いいえ、妹の事だけではなく、わたしはあなたのご主人にも酷いことをしてしまいました。」
「まぁ直道様、それは一体どういうことですの?」
「ご主人の事を警察に密告したのは、わたしなのです。」
「それは、本当ですの?」
「ええ。」
「こちらにお掛けになって、詳しく話してくださいませんか?」
数分後、千尋は直道から信じがたい話を聞いた。
「それは、確かなのですか?」
「ええ。」
「直道様、こうしていらしてくださったのに、大したおもてなしもできませず、申し訳ございませんでした・・」
「いいえ、わたしの方こそあなたのご都合も考えずに女学校へ押しかけてきてしまって申し訳ございません。では、わたしはこれで失礼いたします。」
直道はそう言ってソファから立ち上がると、千尋に一礼した後部屋から出て行った。
「香織様、神崎さんが今どこに居るのか知らないかしら?」
「神崎さんなら、図書室に居ると思うけれど・・どうしたの千尋様、怖い顔をなさって?」
「そう、有難う。」
部屋から出た千尋は、詩織に会いに図書室へと向かった。
「あらどうしたの土方さん、そんなに息を切らして・・」
「神崎さん、あなたでしょう、主人のことを警察に密告するよう石丸の義兄様を唆したのは?」
「あら、一体何の話かしら?」
「とぼけないで!さっき直道様がいらして、わたくしに全てを話してくださったわ!」
「そう、バレてしまっては仕方がないわね。」
詩織はそう言うと、千尋を睨んだ。
「あなたのご主人に、わたしの兄は殺されたのよ。」
「あなたのお兄様が、主人に殺された?それはいつの事かしら?」
「兄は戊辰の戦に新選組隊士として加わって、会津で命を落としたわ!父は兄を死なせた罪は自分にあると、今でも自分を責めて・・母は兄の死を嘆き悲しむばかりで・・そんな両親の姿を見ていたわたくしは、兄をわたくし達から奪ったくせに平気な顔をしているあなた方が憎かったの!そして、あなた方の幸せを滅茶苦茶にしてやろうと思ったのよ!」
「それは誤解だわ、神崎さん。あなたのお兄様は・・」
「言い訳なんか聞きたくないわ!」
詩織は千尋を睨みつけると、図書室から出て行った。
「千尋様、さっき神崎さんが恐ろしい顔をして図書室から出て行ったけれど、彼女と何かあったの?」
「いいえ、何もないわ。」
「ねえ千尋様、嫌な事は早く忘れてしまった方がいいわ。」
「そうね・・」
図書室での一件から、千尋と詩織の関係は険悪になった。
級友たちは二人の関係に勘付いているのか、なるべく千尋を詩織と二人きりにさせないようにしていた。
「土方さん、一体神崎さんと何があったのかしら?」
「さぁ・・それは土方さん達にしかわからないわ。」
「そうね。」
「ねぇ、来週薩摩から編入生が来るのですって。」
「まぁ、随分と遠いところからいらっしゃるのね、どんな方なのかしら?」
「仲良くなれるといいけれど。」
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