イラスト素材提供:White Board様
庭の桜が葉桜となった頃、薩摩から一人の編入生が英和女学校にやって来た。
「佐伯千鶴子です、宜しくお願いします。」
薩摩から来た編入生・佐伯千鶴子は教壇の前で自己紹介すると、千尋達に向かって一礼した。
「何だか、仲良くなれそうね。」
「ええ。」
昼休み、食堂で千尋達が昼食を食べていると、そこへ千鶴子がやって来た。
「そこ、座っても宜しいですか?」
「どうぞ。」
「有難うございます。あの、あなたのお名前は?」
「土方千尋と申します。これから仲良くしましょうね。」
「佐伯千鶴子です。いやぁ、土方様はまるで西洋のお人形さんのようですねぇ。」
千鶴子はそう言うと、千尋の手を握った。
「あら、それは有難う。お世辞でも嬉しいわ。」
「千尋様は、護身術部の部長をなさっておられるのよ。」
「護身術部の部長さんですか?」
「ええ。佐伯さんは、何か武術を嗜んでいらっしゃるの?」
「薙刀と柔術を嗜んでおります。」
「女の方が柔術を嗜まれるなんて珍しいわね?」
「わたしの家は、父や兄達が武術を嗜んでいたので、自然とわたしも武術を嗜むようになりました。」
「あら、そうだったの。佐伯さん、今度護身術部の見学にいらして。」
「ええ、是非見学させていただきます。」
千尋は千鶴子と何かと気が合った。
「何だかわたくし、千鶴子さまに妬いてしまいそうだわ。」
「そんな事おっしゃらないで。」
大広間で千尋と香織が紅茶を飲んでいると、そこへ詩織と見知らぬ女学生が入ってきた。
「あら土方さん、御機嫌よう。今日は薩摩の方はいらっしゃらないの?」
「神崎さん、御機嫌よう。そちらの方はどなたかしら?」
「こちらの方は、狩野万之丞(かりのまんのじょう)さまのご息女の、伊津子様よ。」
「まぁ、そうでしたの。初めまして狩野様、土方千尋と申します。」
「へぇ、あなたが土方さんですか。神崎さんからよう話は聞いていましたけれど、女のわたくしでも嫉妬するような美しいお顔をしてはるわぁ。」
「あら、そうですの。狩野様もご一緒にお茶を頂きませんこと?」
「わたくし、お茶は宇治の抹茶しか飲まへんと決めてるんどす、堪忍え。」
「まぁ、それは残念ね。もう行きましょうか、香織様。」
「ええ・・あの方、なんだかお高くとまっておりましたわね?まぁ神崎様とは仲良くなれるのも、納得できますけれど。」
「世の中には、色々な方がいらっしゃるから、仕方がないわよ。」
香織が伊津子の高慢な態度に憤慨している一方、千尋は涼しい顔をして廊下を歩いていた。
「千尋様は、腹が立たないの?」
「そりゃぁ、腹が立つけれど、いちいちあんなことに腹を立てていても、時間の無駄だと思うのよ。」
「それもそうね。でもわたくし、どうしても思っていることが顔に出てしまうのよ。どうしたら千尋様みたいに、冷静になれるのかしら?」
「あら、わたくしだって、何もはじめからこんなに冷静だったわけではないわ。色々な事を乗り越えてきて、物事を冷静な目で見られるようになったの。」
「羨ましいわ、わたくしもいつか千尋様みたいになりたいわ。」
その日の夜、千尋が香織と千鶴子と三人で夕食を取っていると、奥の席に詩織と伊津子が座った。
「わぁ、美味しそうなお肉ですね!」
「そうね。」
食膳の祈りを捧げた後、千鶴子はステーキを一口大に切ってそれを頬張った。
「ああ、美味しい!こんなお肉、今まで一度も食べたことないです!」
「そらそうやろうなぁ、薩摩の田舎娘には、到底口に出来へんものやさかい。」
「ちょっと、今何かおっしゃったかしら?」
「いいえ、うちは何も言うてまへんえ。」
「この・・」
「おやめなさい、千鶴子様。つまらない挑発に乗ってはいけませんよ。」
「けれど・・」
「田舎娘を田舎娘と言うて何が悪いんどす?」
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