イラスト素材提供:White Board様
義郎(よしろう)が太田家に戻って助けを呼びに行っている間、千尋は一人で大の男二人を相手に戦っていた。
「へえ、なかなかやるじゃねぇか。」
「ま、それがいつまで続くかな?」
男達はそう言って笑いながら、手にしていた鎌や鉈(なた)を千尋に向かって振るった。
「得物を持たないとわたくしを倒せないのですか?」
「うるせぇ、このアマ!余り俺達を舐めていると痛い目に遭うぞ!」
千尋の挑発に乗り、鉈を持った男はそう彼を睨みつけると大きく腕を振り上げた。
その隙を狙った千尋は、帯の中に隠していた小太刀(こだち)の鯉口を素早く切り、男の向う脛を勢いよく蹴り飛ばした。
勢いよく体勢を崩した男の喉元に、千尋の小太刀の切っ先が突き付けられた。
「さっさとここから去りなさい。」
「畜生、行くぞ!」
気絶した仲間の身体を両脇で支えながら、男達は闇の中へと消えていった。
「土方さん、賊に襲われたと聞いたが・・大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。」
「千尋!」
「歳三様・・」
「よかった、お前ぇが無事で・・」
「ご心配をおかけして、申し訳ありません。」
千尋が賊に襲われてから数日が経った。
彼を襲った男達の正体はいまだに判らぬままだった。
「千尋、これから出かけるときには必ず俺に言えよ。それか、義郎さんに供をつけてもらえ。」
「そのような事をしなくても、自分の身は自分で守れます。」
「甘ぇよ、千尋!向こうはお前や俺のことを知っているんだぞ!」
「歳三様・・」
「お願いだ、俺の言う事を聞いてくれ。お前ぇに何かあったら、俺は生きていけねぇ。」
「わかりました、あなたの言う通りに致します。」
「それでいい。」
歳三はそう言うと、千尋の唇を塞いだ。
「太田様、失礼いたします。」
「土方さん、君を襲った男達の身元が割れたよ。」
「そうですか。」
「彼らは、ある男に雇われて君を夜道で襲えと指示されたと警察で白状したよ。」
「誰なのです、わたくしを襲うよう男達に指示をした方は?」
「それは・・」
太田はさっと千尋の隣に腰を下ろすと、千尋を襲うよう男達に指示をした者の名を彼の耳元で囁いた。
「土方さん、このことはご主人には・・」
「主人には報告しません。」
「このような事になって、本当に済まない。彼のことは、わたしに免じて許してくれないか・・」
太田はそう言うと、千尋に向かって土下座した。
千尋が賊に襲われてから四日が経った。
この日は太田の家で裁縫学校設立についての会合が開かれていた。
「裁縫学校を、甲府につくるだと?」
「ええ。学校には裁縫だけではなく、英語や和歌なども生徒達に教えたいと思っております。」
「ふん、そんな役に立たねぇもの、つくってどうなるんだ!」
そう言って千尋を睨みつけたのは、斎田という男だった。
「斎田さん、ひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」
「何だ!」
「四日前、この近くに住む男達に金を渡して、わたくしを襲うよう指示したのはあなたですね?」
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