「千尋ちゃん、どうかしたの?」
「さっき、門の外から僕の事を見ていた男が・・」
「そう。」
希はそう言うと、突然千尋の手を掴んで中庭から外へと出て行った。
「ちょっと、そこのあなた!」
希に呼び止められ、千尋を見つめていた男はゆっくりと彼女の方に振り向いた。
男の右の頬には、傷があった。
「あなた、千尋ちゃんにつきまとっているんですってね?」
「お前には関係ねぇだろう、引っ込んでいろよ。」
「そうはいかないわ。」
希はそう言って男を睨むと、男は一瞬怯んだ後、舌打ちしてそのまま何処かへ行ってしまった。
「希さん、有難うございました。」
「千尋ちゃん、これから困ったことがあったらわたしに何でも言って。これ、わたしのスマホの番号とメールアドレスね。」
千尋と希が近藤家の中庭に戻ると、勇と談笑していた歳三が二人の元へ駆け寄って来た。
「二人とも、何処に行っていたんだ?」
「千尋ちゃんにつきまとうストーカーに、ガツンとわたしが言ってやったのよ。」
「希、本当にお前は全く変わってねぇな、そういうところ。」
歳三はそう言うと、溜息を吐いた。
「ねぇトシ兄、まだあの人とは続いているの?」
「ああ。琴子は今実家に帰っている。美砂は今日、実家に預けてきた。」
「そう。あの人とは結婚式の時に会ったけれど、何だかつんけんしていて嫌だなぁって思ったのよね。トシ兄はどうしてあんな人を選んじゃったんだろうって、思ったわ。」
「希も近藤さんも、琴子に対して厳しいな。」
「だって、あの人たちわたしや勇兄がトシ兄と話している時、不機嫌そうな顔をしてわたし達の方を睨んでいたんだもの。妙に嫉妬深いっていうか、自己中心的っていうか・・実家では、お姫様みたいに向こうのご両親から可愛がられてきたんでしょうね、きっと。」
「まあな。」
「いくらトシ兄が家事や育児を手伝ってくれるからって、こんなに家を空けるなんておかしいと思わない?熱が出ている子供を放ったらかしにして、同窓会に出席するなんて、普通母親がすることじゃないと思うわ。」
「まぁ、あの子は母親の自覚を持たないまま子供を産んだんだから、仕方がないんじゃないのかねぇ。」
いつの間にか歳三と希の近くに来ていた近藤の養母は、そう言うと二人にアイスクリームのカップを手渡した。
「トシ、琴子がこのまま実家から帰って来ないのなら、あの子とどうするのかを考えな。」
「それは、琴子と別れることを考えろってことか?」
「察しがいいね。あたしゃぁあんたら夫婦の事に口を挟むつもりはないがね、希がいう事には一理あると思うね。」
バーベーキューパーティーが終わり、近藤家を後にした歳三は、千尋を自宅で車まで送った。
「土方先生、今日は誘ってくださって有難うございました。」
「ああ。千尋、家の前だからって油断するんじゃねぇぞ。」
「わかりました。それじゃぁ、おやすみなさい。」
歳三の車から降りた千尋が家の中に入ると、リビングの方から養父母が話す声がした。
「まだあの男はお前のことを諦めていないのか?」
「ええ。わたしにとってはもう縁が切れた人だっていうのに、いつわたしがここに住んでいることを知ったのかしら?」
「警察に相談した方がいいんじゃないのか?殺人事件が起きたら遅いんだぞ!」
「わかっているわよ、そんなこと!」
扉越しに二人が口論している声を聞いた千尋は、そのまま階段を上がって自分の部屋に入った。
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