「皇太后さま、本気なのですか?陰陽師如きを東宮にさせるなど・・」
「戯言で妾がそのようなことを申す訳がなかろうが?」
信子は、光明を東宮にすることを反対している女房達を睨んだ。
「いえ・・」
「そなたら、二度と妾に向かって生意気な口を利けぬようにしてやろうか?」
「お許しください、皇太后さま!」
「わかればよいのだ。」
「宴、ですか?」
「そうじゃ。そなたの妃選びを兼ねて、今宵管弦の宴を開こうと思っておる。」
「そうですか・・」
「何処か浮かぬ顔をしておるな?」
「いいえ。」
「そなたは宴が始まるまで、安倍の家でゆっくりしておればよい。」
「わかりました。」
信子の部屋から出た光明は、その足で美鈴が居る桐壺へと向かった。
「光明様、お久しぶりでございます。」
「美鈴様、お元気そうで何よりです。今宵、皇太后さま主催の管弦の宴が開かれるのをご存知ですか?」
「ええ。その宴には、わたくしも出席するつもりです。」
「そうですか。では、またお会いしましょう。」
「ええ。」
美鈴が光明に向かって手を振った後、彼女は背後から誰かに肩を叩かれた。
「あなた、光明様とお知り合いなの?」
「ええ。」
「あの方、陰陽師だというのに東宮になられるんですって?随分と図々しいお方なのね。」
「それは一体、どういう意味ですか?」
女房の言葉に少し怒りを感じた美鈴がそう彼女に問いただすと、彼女は軽蔑したような笑みを口元に浮かべた。
「だってあの方、謀反人の血をひいているのでしょう?それなのに、何故東宮になろうとするのかしら?」
「それは、皇太后さまがお決めになったことです。」
「皇太后さまも、皇太后さまよねぇ。謀反人の息子を東宮になどしようとして、何を企んでいるのかしら?」
「妾が何を企んでいるか、知りたいのか?」
凛とした声が美鈴達の背後から聞こえたかと思うと、彼女達の前には憤怒の表情を浮かべている信子が立っていた。
「こ、皇太后さま・・」
「光明は宏昌の血をひく、皇子であるぞ。故に、東宮となる資格がある。それに宏昌は謀反の罪を着せられただけのこと。今後宏昌と東宮を貶める様な事を言うてみよ。そなたの首を刎ねてやろう。」
「お許しください、皇太后さま。お命だけは、どうかお助けを・・」
「ならば、その口を一生閉じておけ。」
「は・・」
美鈴相手に皇太后の陰口を叩いていた女房は蒼褪めた顔で部屋から出て行った。
「そなた、美鈴といったな?」
「はい、皇太后さま。」
「そなた、妾についてくるがよい。そなたに見せたいものがあるのじゃ。」
「かしこまりました。」
美鈴が信子の部屋に入ると、そこには美しい唐衣が掛けられてあった。
「美しいですね・・」
「そうであろう?この唐衣は東宮妃が纏うものじゃ。」
「東宮妃様が?」
「今宵開かれる管弦の宴は、光明の妃を選ぶことが目的で開くのじゃ。美鈴よ、妾からそなたに頼みたいことがある。」
「頼みたいことでございますか?」
「ちと、耳を貸せ。」
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