「土方さんを副長室に運ぶぞ!」
「は、はい!」
井戸の前で倒れている歳三の身体を斎藤と千は支えながら、彼を副長室へと連れて行くと、騒ぎを聞きつけた平助達がやって来た。
「平助、山崎君を呼んで来てくれ。」
「わかった。」
歳三を布団の上に寝かせると、千は押し入れの中からリュックを取り出した。
(確か、ここにあった筈・・)
チャックのジッパーを開け、千はその中に手を突っ込むと、ある物を取り出した。
「千、そこで何をしている?」
「薬を探していました。」
そう言った千が握っていたのは、現代から持って来た風邪薬とペットボトルの水だった。
「それは何だ?」
「風邪薬です。これを飲むと風邪がすぐに治ります。土方さんに効けばいいんですが・・」
千は風邪薬のカプセルを掌に載せ、もう片方の手でペットボトルのキャップを開けた。
「土方さん、聞こえていますか?」
枕元の歳三に千がそう呼びかけると、彼は静かに頷いた。
「薬を持って来たので、飲んでください。」
「要らねぇ・・」
歳三は身体を反転させ、千にそっぽを向いた。
激しく咳込む彼の様子がとても苦しそうで、千は歳三の肩を掴んで自分の方へと引き寄せた。
「何すんだ!?」
「薬をお飲みにならないのなら、僕が飲ませます。」
「要らねぇって言ってんだろうが・・」
カプセルを口に含み、その中に水を流し込んだ千は、自分を睨みつけている歳三の唇を塞いだ。
「ぐぅっ!」
歳三は一瞬苦しそうな顔をしたが、水と薬を飲んだ。
千のあまりにも大胆な行動に、斎藤は唖然としていた。
「副長、お待たせいたしました!」
副長室の襖が勢いよく開き、中に入ろうとした山崎は歳三と千が口吸いをしている姿を見て固まってしまった。
「・・お邪魔でしたか。」
「ち、違います!これは仕方なく・・」
「山崎、誤解すんじゃねえぞ!」
歳三は頬を赤く染めながらそう言うと、千を思い切り突き飛ばした。
「てめぇ、いつまで俺とひっついていやがる、さっさと離れろ!」
「はいはい、解りましたよ!山崎さん、後はお願いしますね。」
副長室の襖を閉めて廊下に出た千は、元気を取り戻した歳三の姿を思い出し、口元に笑みを浮かべた。
「千、土方さんは大丈夫なのか?」
「はい。ちょっと斎藤さんと山崎さんにやばい所を見られてしまいましたけど。」
「やばい所?」
「いえ、こっちの話なので、気にしないでください。」
「あ、そうだ、さっき荻野が戻って来たんだよ。今あいつは総司の部屋に居るぜ。」
平助はそう言うと、歳三の様子を見に副長室へと駆けていった。
「荻野さん、居ますか?」
「千君、お入りなさい。」
襖越しに総司の声が聞こえ、千が襖を開けると、そこには女子姿の千尋と意識を取り戻した総司の姿があった。
「沖田さん、意識が戻られたのですね!?」
「ええ。皆さんにはご心配をおかけしました。千君、土方さんはどうしていますか?」
「土方さんなら、風邪をひいてしまって、副長室で休まれています。」
「そうですか。では土方さんのお見舞いに行かないと。」
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