「てめぇ、離しやがれ!」
「落ち着いてください!」
千が歳三の病室に入ると、室内は割れた窓ガラスが散乱し、歳三が点滴針を腕に刺したままスタンドを振り回して暴れていた。
「誰か、先生を呼んで来て!」
「土方さん、落ち着いてください!」
「うるせぇ、こんな所に居られるか!総司の奴を探さねぇと・・」
歳三はそう言うと、激しく咳込んだ。
「まだ本調子ではないんですから、無理をしないでください。」
「俺を止めるな、千!」
歳三は自分の肩に触れようとした千の手を邪険に払いのけると、そのまま病室から出て行こうとした。
しかし、病室に入って来た男性医師によって鎮静剤を打たれた歳三は、そのまま床に倒れた。
「君、少し話したいことがあるんだが、いいかい?」
「はい・・」
数分後、千は男性医師―高橋に連れられて病院内のレストランへと入った。
「好きな物を頼むといい。」
「では、コーヒーをお願いいたします。」
「解った。」
高橋医師はウェイトレスに二人分のコーヒーを注文すると、千の方へと向き直った。
「さっきの患者・・土方さんと君は、一体どういう関係なんだい?」
「土方さんは、僕の命の恩人です。僕は行き倒れになったところを、土方さんに助けて貰いました。」
「そうか。さっき彼が暴れている時、何度も彼は“総司を探さねぇと”と言っていた。その総司という人物に心当たりはない?」
「総司は、土方さんの奥さんの名前です。沖田さんは今、行方が判らないんです。だから、土方さんはあんなに暴れていたんだと思います。」
千はそう言うと、タイムスリップした時に伊東から取り戻したスマートフォンに保存されている総司と歳三のツーショット写真を高橋医師に見せた。
「ウェディングドレスを着ている人が、沖田さんです。」
「本当に、彼の行方は判らないかい?」
「はい。ただ、沖田さんを拉致した男は知っています。薄井という男です。」
「薄井・・」
薄井の名を聞いた高橋医師の眦が少しつり上がった。
「先生は、薄井さんをご存知なのですか?」
「ああ。彼はわたしと大学の同期生でね、東京都内にある研究施設で働いている。」
「研究施設?」
「詳しくは言えないが、政府と大手製薬会社の協力を得て、薄井はある薬を開発しているらしい。」
「ある薬とは、何ですか?」
「不老不死の薬、ありとあらゆる病を治す薬だ。そして、本来女性にしか出来ない事を男性にも可能にする事が出来る薬を薄井は開発している。噂ではその施設では、密かに人体実験を行っているらしい。」
「人体実験?」
「ああ。まぁただの噂だし、信じない方がいいがね。」
高橋医師はそう言って千を安心させるかのように微笑むと、運ばれてきたコーヒーを一口飲んだ。
同じ頃、東京都内にある研究施設の一角にある病室のベッドの上で、鎮静剤を打たれた総司が眠っていた。
彼の様子を廊下に面した窓から、白衣を纏った薄井と一人の男が観察していた。
「何か変わった事はないか?」
「はい。ですが教授、ただ一つ、気になった事があります。」
「それは何だね?」
「検査の結果、彼は男性でありながら妊娠しています。恐らく自然妊娠でしょう。」
「何だと!?」
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