京に着いた途端、何者かに命を狙われている事を知った歳三は、その日の夜は一睡も出来ずに朝を迎えた。
「おはようございます、土方さん。」
「おはよう・・」
目の下に隈を作っている歳三の姿を見た総司は、彼に電気ポットで淹れた白湯が入った湯呑を差し出した。
「これでも飲んで落ち着いてください。」
「有難う、総司。それにしても、一体誰が俺の命を狙っているんだろうな?」
「さぁ・・それよりも土方さん、早く着替えて朝餉を食べに行きましょうよ。」
「わかった。」
浴衣から私服に着替えた歳三は、総司と共に部屋を出てホテル内のレストランで朝食を取った。
「総司、そんなに甘味ばかり食ったら太るぞ?」
「大丈夫ですよ、わたしあんまり太らない体質なので。」
そう言いながら総司は皿に載ったジャムパンやシナモンロールを平気で平らげていく。
「お前なぁ・・」
歳三が呆れた顔をしながら食パンにジャムを塗りたくっている総司の横顔を見ていると、彼は再び背後に強烈な視線を感じて振り向いた。
レストランから少し離れた場所に、灰色の上下のスウェット姿の青年が、虚ろな目で歳三の事を睨んでいた。
「総司、少しここで待ってろ。」
「はぁ~い、わかりました。」
歳三が席を立ち、レストランから出て青年の方へと近寄ろうとしている事に気づいたのか、彼は歳三に背を向けて突然走り出した。
「待て!」
青年は歳三を肩越しに睨みつけながらも、走るスピードを緩めようとしなかった。
彼は丁度エレベーターホールに到着したエレベーターに乗り込もうとしたが、非情にもそのドアは彼の目の前で閉まってしまった。
「クソ!」
そう吐き捨てるような口調で悪態をついた青年は、その場で地団駄を踏んだ。
「てめぇか、さっき横断歩道の前で俺の背中を押したのは?」
「俺はあの人に頼まれただけだ!」
「あの人だと?そいつはぁ一体誰の事だ?俺が怒らねぇ内に全てを吐け。」
歳三がそう言って青年の胸倉を掴むと、彼は乱暴に歳三の手を振り払い、そのまま下りのエレベーターに乗り込んでしまった。
「ったく、逃げ足が早い野郎だ・・」
歳三が舌打ちしながら総司が居るレストランへと戻ると、彼は五個目のシナモンモールを平らげているところだった。
「総司、そろそろ部屋に戻るぞ。」
「わかりました。ねぇ土方さん、部屋に戻る前にシナモンロールを買ってください。」
「わかったよ、買ってやるよ・・」
「さっきの子、何だか訳ありみたいでしたね。」
ホテル内のベーカリーショップで総司はそう言いながらトレイの上に次々と商品を載せると、歳三の方を見た。
「ああ。あいつ、逃げる前に誰かに俺を殺そうとするのを頼まれたとか言っていたな。」
「土方さん、知らなうちに恨みを買っていますからね・・女の人絡みで。」
「総司、最後の一言は余計だろうが。」
歳三がそう言って総司の方を睨むと、彼は自分が持っていたトレイを歳三に手渡した。
「おい総司、まさかとは思うが・・これ全部食う気じゃねぇだろうな?」
「食べますよ?」
「腹壊しても知らねぇぞ。」
レジで歳三はそう言いながら会計を済ませた後、溜息を吐いた。
部屋に戻った総司が早速買ったパンを食べている姿を横目で見ながら、歳三は浴室に入ってシャワーを浴びた。
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